第四百二十四夜『満月の光を集めよう-reach for the moon-』

2023/08/23「夜空」「機械」「最高の大学」ジャンルは「指定なし」


 夜雲ヨグモ灰暮ハイクレと言う研究者肌の医者が樽編だらむ大学に居た。何やら胡散臭うさんくさい研究に没頭しているだの、過去に医療ミスを犯して揉み消しただのと、周囲から陰口を叩かれている男なのだが、その実親しみやすくて柔和な印象を覚える様子の男性だった。

 彼の今の研究テーマなのだが、満月がもたらす健康と蓄光ちっこうライトに関してだ。

 満月が訪れると、人体は満月の引力の影響えいきょうを受けて活性化し、満月の間は多くの人は健康状態が良好に向かう傾向にあり、その結果病気も快方に向かう。これはミンメイパブリッシング社から出ている『最新医学におけるバイオタイド現象』と言う書籍しょせきにもっており、業界では常識じょうしきとも言えた。


 待ちに待った満月の日、夜雲教授は蓄光素材で作ったネックレスを大量に大学の屋上に並べて満月の光を吸収させた。さながら太陽光発電ならぬ、月光発電と言うべき光景か。

「私の理論が正しければ、このネックレスを着けていれば人体は満月の影響下にあるに等しい筈だ。サンプルは生徒達にやらせるとして、サンプル数はこれだけあれば十分だろう」

 夜雲教授は自らの理論を確信し、満月の光を蓄えたネックレスの数々をほくそ笑んで眺めた。


 翌日、夜雲教授は満月の光をたくわえたネックレスを学生達に付けるよう言いつけて配った。何せ学生と言うのは遊びに勉学に趣味しゅみで、いつだって疲れているものだと決まっている。きっと成果はすぐに出る筈だ。

 そう考えて学生達に満月の光を蓄えたネックレスを付けさせた夜雲教授なのだが、実験は思わぬ方向にすぐに成果が出た。なんとくだんのネックレスを着けた学生達が、みな一様に舟をこぎ始めたではないか!

「なるほど。満月の光で蓄光を行なった物を身に着けると、人体は今を夜だと誤認して眠くなると言う事か」

 夜雲教授は眠りこける学生達を見ながら、自らの実験が思った方向に向わなかった事に対し、不服な様な、これはこれで利用価値が有るとでも言う様な、そんな神妙な表情を浮かべていた。

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