第四百十七夜『あの日見えていたもの-muscae volitantes-』

2023/08/14「春」「ミカン」「最速のかけら」ジャンルは「指定なし」


 私は幼少の頃、奇妙な物が見えていた記憶がある。目をこらすと、それこそどこにでもその小さな生き物の様な物が視界に居た気がする。

 幼い私はその小さな生き物の様な物をうまく説明できないで居たが、周囲の大人に小さい生物が居る事を説明しても、本気にしてもらえなかった。

 その生き物の事は今でもうまく説明出来ないのだけど、身体のとてもうすっぺらい微生物びせいぶつの様な印象と言うか、強いて言うなら果肉と果汁を摘出したミカンの皮をさらに薄くした様な生き物とでも言うべきだろうか? そんな小さい生き物だが、どこでもよく目をこらすと数匹は必ず居たのだ。

 今となっては、その小さな生き物はどこを見ても見当たらない。どこかへ消えてしまったのか、それとも小さい人間にしか見えない何かカラクリでもあるのか、或いは幼少の私の勘違いか妄想か何かだったのか、今でもはっきりわかってはいない。


 春一番が吹き、小さな生物が風に乗って飛んでいた。その生物は人々からは蚊の様なモノとか、もしくはスカイフィッシュ、或いはロッド、もしくはゴミとかホコリと呼ばれていた。

 その小さい生物はどうやっても人間の目で捉える事は出来ず、静止している時にだけ人間は目で見る事が出来た。しかしこの小さい生物はあまりにも小さく、そして薄いので静止していても存在に気が付く人はごく少数だった。

 この生物はの様な速さで飛んで住処すみかを移す事を目的としているが、時折人間の眼球に張り付いて横着をする。自ら風に乗って移動するよりも、大型の動物に運んでもらう方がよっぽど都合が良いと言う意思の元、生態せいたいを設計されているのだ。仮にこうして眼球に張り付く等と言う大胆な手段を使っても、余りにも小さくて薄い為気が付く人は少ないし、そもそも気が付かない人の方が多数派だ。

 ところでそこのあなた、最後に洗眼をしたのは何時ですか?

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