第四百十三夜『死神に魅入られた村-reversed 13-』

2023/08/07「宇宙」「死神」「真の才能」ジャンルは「指定なし」


 村を一望できる高台で、身の丈程もある農具を手に持ち、ストロベリーブロンドのかみをした、農業従事者風のうぎょうじゅうじしゃの青年が建物の上から黄昏ていた。

 高台で黄昏ていると言っても、夜をはかなんで自決を考えていたと言う訳ではない。むしろその逆、彼は人殺しを計画しているのだ。

 彼は名をレックス・ロッソと言い、その職業しょくぎょうは農業従事者ではなく死神。しかし死神と言っても、スマートな人殺しをそう揶揄やゆしているのではない。彼は事実、人ならざる存在で、この世の者ではない。

 全ての生き物には寿命だとか命脈だとか運命があり、それが尽きた時死ぬ。ここで言う死神とは、運命や命脈が尽きかけた人間の元に行き、スパッと命を絶つ。それこそが宇宙のルールであり、レックスにとっての仕事だった。

 しかしレックスには一つ困った事があった。彼は死神としての熱意はある、しかしどうにも要領がよくないのである。

 ある時レックスは運命が尽きた人間を見つけて、車にかれる様に誘導ゆうどうした。普通、死神は人間の苦しみだとか痛みだとか、或いは安楽死や大往生は殆ど全く気にしない。この場合は車に轢かれて亡くなってくれれば、それだけが彼等の関心事と言う事だ。しかしレックスは死神としては容量が悪く、はっきり言えば不合格なのだ。彼は人間を死に誘おうとしても二回に一度は失態しったいを見せてしまい、件の人間は車に跳ねられたが死ぬどころか五体満足の軽傷だった。

 これではいけないとレックスは手に持ったかまを振るおうとするが、どうにも彼が魅入ったが失敗した人間を今一度見て見ると、不思議な事に運命が尽きていないのである。そもそも死神に魅入られたが、これから逃れてみせたのだ、運命が尽きているとは全く全然言いがたい。レックスは仕方が無しに、他の運命が尽きかけている人間を探す他無くなる……その様な失態を毎日行っていた。

 さて、死神と言うのは多くの人がそう認知している様、霊的存在であり形而上的存在けいじじょうてきそんざいである。つまりどう言う事かと言うと、神社や神殿しんでんがそうである様に、神々であるから所在があって管轄かんかつがあって担当があるのである。即ち『お前は二人刈り取る内に一度は必ずポカをするのだから、異動してもらう事になった』そう他の死神に言われる可能性だって無きにしもあらずなのである、戦々恐々である。

 故に、レックスは勤勉である様に努めた。古代ギリシャでは死神とはマジメで冷徹れいてつで例外を認めない神だとされていたが、これは即ちこの様な事情なのである。

 レックスは毎日、鎌を手に村のあちこちで運命が尽きそうになっている人を刈り取ろうと精を出すが、何故だか知らないがレックスが仕事に打ち込めば打ち込む程に彼が担当している村に人間は増えていった。

「働けど働けど、俺の仕事は毎年増えて行く……一体俺が何をしたって言うんだ?」


 テレビの報道で、ある村にリポーターとカメラマンが訪れていた。何でもこの村は不老長寿の村と呼称されており、度々九死に一生を得る様な住民が見られ、そして事実として平均寿命も高く、そのお陰でここ数年移住者が後を絶たないとか……

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