第四百九夜『妖精を信じるなら手を叩こう-never landing-』

2023/08/03「陰」「妖精」「消えた主人公」ジャンルは「指定なし」


『♪妖精を信じるなら手を叩こう』

 そう歌いながら手を叩く、別に妖精が手の内に何時いつの間にか居たりはしなかった。

 俺は小さい頃は妖精を信じてはいたが、ついぞ生きた本物の妖精の姿見た事は無かった。今も別に妖精を信じる純真無垢な子供と言う訳では無いが、妖精が居たら良いのにな……と、そう思う事ならば有る。

『♪妖精を信じるなら手を叩こう』

 そう歌いながら、再び手を叩く。今度も、生きた本物の妖精は居なかった。もっと言うと、俺の手の中にはつぶれて死んだ妖精の死骸があるだけだった。

「こうすれば空を飛べるって聞いたんだが、うまくいかないものだな……」

 俺は鬱蒼うっそうとした見た事も無い不思議な植物で形成された密林の中、足元には大量の妖精の死骸が重なった状態で、石の上に座したまま頭を抱えた。太陽はすっかり沈んでしまっているが、周囲の植物は蓄光ちっこうしているのかツタが青い発光をしているので光源はある。しかしそれはそれとして、見た事も聞いた事も無い不気味な植物に囲まれて、人気ひとけが全く無い未開の大地の様な場所に独りで居るのは非常に心細い。

 うまく妖精を捕まえる事が出来れば、それで空を飛べるとか願いが叶うと、よく伝承でそう聞くが、どうやっても上手くいかない。

 全くもって、前人未到の難題と言う奴だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る