第四百五夜『絶滅しても困らない生き物-bloodsucker-』
2023/07/30「入学式」「終末」「正義の可能性」ジャンルは「王道ファンタジー」
春には入学式があり、終業式が訪れれば夏休みになる。今は丁度多くの学校で夏休みが始まった頃であり、言い換えると夏真っ盛りである。
そして今、俺は蚊に安眠を妨害されている。
「ええい、
手と手で思いっきり勢いよく合わせ、蚊を捉えたと思ったが、手を開くと無しの
「ええい、この吸血鬼共め! お前らなんて
俺の健闘も虚しく、結局俺は部屋から蚊を追い出す事も根絶する事も出来ず、夜は更けていった。
「くそ、体のあちこちが
翌日、俺は蚊に喰われて痒い体に
俺はこれらの飾りを知っている。あそこにあるのはカラス除けの目玉、そっちには
店先にある商品の数々に興味を抱き、他にはどんな商品があるのかキョロキョロとせわしなく目を動かしていると、中に居る店員らしいイブニングドレス風で
(外で見てなんかいないで、中へどうぞ)
女性はそう目で語っている様で、事実俺は陽が沈んだものの湿気が重苦しい空気から逃れるためにも店に入らせてもらった。
「どうぞいらっしゃい、今日は何をお求めに?」
「ええと、表にあったのは虫除けの花ですか? 俺、よく蚊に食われやすい体質なんスよ」
俺は自分で自分に
「ええ、あのポプリは蚊を遠ざける物です。あのポプリをおうちの入り口にかけておくなり置いておくなりすれば、まるでその一帯から蚊が絶滅した様になります。このお店の中にも外にも蚊は居ないでしょう?」
「それはすごい! しかし値札が貼ってありませんでしたが、幾らなんですか?」
「それはね、あのポプリはサンプルで非売品ですからです。でも安心してくださいな、同じ商品もあって、こちらは時価」
店員さんが示したのは未開封のポプリで、口頭で伝えた値段は驚くほど安かった。パッと見たところ、殆ど原価と言う印象だ。俺は飛びつく様に一つ
「はい、どうぞ。効果は季節の変わり目から変わり目までです」
それはいい! 俺は大喜びでポプリを持って小物屋を後にした。
「お買い上げありがとうございます。それでは、また明日」
俺の背後、扉の向こうから店員さんが何かを言ったが、俺の耳にはくぐもってよく聞こえなかった。
「これでよし!」
俺は自宅玄関にポプリを置いた。包みから出したポプリからはミントに近い清涼感のある爽やかな香りがして、これで蚊が近寄らないと言うのは半信半疑だった。しかしこのポプリの効果はすぐに現われた。
「これはすごい! 普段なら蚊の羽音が聞こえる筈なのに、全然聞こえないぞ!」
これで俺は俺は安眠が出来ると思った。
「痛っ!」
俺は手の甲に痛みを覚え、反射的に手の甲を打った。
蚊の飛ぶ音は聞こえなかったし、そもそも蚊に刺されたのだったら痛みは無い筈だ。何事かと思って手を除けると、そこには何やらハエの様な生き物が
何と言う事か、これまで蚊が居たうちだが、蚊が居なくなった
俺はポプリを売りつけた店員に対して
「きっとあの中に蚊避けのポプリの他に、アブ除けの代物が有る筈だ! そうでないなら、あの店の中にアブが居なかったのはおかしい!」
俺はアブ退治に
「すみません、この店にある虫除けを全部一つずつください!」
俺は件の小物屋の扉を
「あら、いらっしゃいませ。きっと来ると思っていました」
きっと来ると思っていたとは、
「いいから全種類包んでくれ、虫除けを全種類だ!」
「虫除けを全種類ですね? 承りました」
これで一安心だ。俺はそう思いながら店員から商品の数々を受け取りながら、代金を払った。
鼻をくすぐるパクチーの様な刺激的な匂いのするポプリ、柑橘類の様な目の覚めるどことなくリゾートの様な香りのするポプリ、桃の様に甘い香りを胸を一杯に満たしてくれるポプリに、アロエの様な気分がシャッキリと鼻を洗い清めてくれるようなポプリ……どれも驚くほど安く、全部買っても大した値段ではなかった。
(そんなに安いなら、最初から全部売ってくれてもいいだろうに……全く気の効かない店員だ!)
俺はそう、口に出さずに毒づきながら店を後にした。
昔の映画かアニメで見る様な、おまじないの品々を取り扱う小さな小間物屋があった。
店の中には、飾り気の無いシンプルな黒のイブニングドレス風の姿をした墨を垂らした様な黒髪が印象的な店主と、どこかナイフの様な印象を覚える
店主の女性はラジオをつけながら
「そう言えばカナエは虫に刺される方かしら?」
「どうしたんですか? そんな
店主の女性の言葉に、従業員の青年は少々驚いた様に反応した。
「この間ね、虫に刺されるから虫除けをたくさん買って行って下さったお客さんが居たのよ、虫に刺されやすい体質だとも言っていたわ。それでカナエもそうなのかな? と、尋ねて見たくなったの」
「うーん、考えた事も無かったです……人並みに虫刺されはするって事にしておいてください」
従業員の青年は、特に偽証をするでもはぐらかすでもなく、本心からそう答えた。
「しかし虫除けをたくさんですか? 普通虫除けって一つあったら大丈夫そうなものですが、その人の家の周りってどうなっているんでしょうね?」
「ええ、でもうちの商品はどれも本物ですからね。蚊でもアブでも、ブヨでもヒルでも何でも退けるわ」
携帯端末のニュース記事を見たまま、店主の女性は自信満々にそう断言した。
「ブヨでもヒルでもって……そんなの街中で見た事無いですよ」
「でも、そう言う商品なのは本当よ。何だったら、もっとすごい吸血生物が来ても平気な商品もあるわ」
まるで勝ち誇った様に自信満々で言う店主の女性に、従業員の青年は少々呆れた様な態度を示した。
「もっとすごい吸血生物って……ドラキュラ
丁度その時、ラジオの報道番組が殺人事件を告げた。何でもアパートの一室で猟奇殺人があったらしく、被害者は血液を全て抜かれていたとの事だ。
昔の映画かアニメで見る様な、おまじないの品々を取り扱う小さな小間物屋があった。
店の外には様々な飾りが垂らされており、中でも目を
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