第三百九十八夜『子供が消えた-closet monsters-』

2023/07/23「雨」「プレステ」「静かな物語」ジャンルは「王道ファンタジー」


 大人の言う事聞かない子 お化けの国へ 連れて行く

 夜中に寝てない悪い子は 夜にお迎え 連れて行く

 ゲームをやめないいけない子 腕を掴んで 連れて行く

 クローゼットの世界から 悪い子さらって 連れて行く


 ベッドの中で子供が恐怖で震えていた。親から恐ろしい童話を聞かせられて、恐怖の余り布団の中から出られないのだ。

 童話のお化けは単純な絵柄に因る物だったが、シンプル故に恐ろしさを感じるデザインで、事実子供は心臓しんぞう鷲掴わしづかみにされている様だった。

 仮に布団から出たら、いや、目を開けたらクローゼットの中からお化けが出て来て攫われそうな気すらしていた。

 外では雨がザアザアと音を立てて降って、窓をしたたかに叩きつけていた。しかし目を開ける事すら叶わない恐怖に駆られているこの子供は、そんな自然現象を何でも無い事と片付ける事は出来なかった。

 子供はひたすら硬く目を瞑っていた。親に助けを求める事は出来ないし、窓の様子を伺う事も出来ない。それ程に、この子供にとってあの童話は刺激的だった。心理的外傷と言ってもいい。

 そんな親に助けを求める事すら出来ない子供は、ただただ恐怖心にむしばまれながら目を固く閉じるしか出来なかった。それ故、加えてこの悪天候で、部屋の中でかすかな異音がした事に気が付かなかった。

 異音の主は殆ど音も無く現れ、ベッドで目を閉じている子供の元へ忍び寄り、布団越しに子供をつぶさに観察し、特に子供の顔や手足や腹部にあたる部分を凝視ぎょうしし、何やら納得した様子を見せると、つむじ風の様に子供を持ち上げクローゼットの中へと駆け抜けた。

 その後には誰も残らず、布団の中で怯えていた子供も、子供部屋の闖入者ちんにゅうしゃも居なかった。


 ところで、この話には続きがある。クローゼットの中には、異様な世界が広がっていた。攫われた子供は怯えていたが、クローゼットの中の世界の住人達は子供をなだめる様に抱きしめたり、温かい食事を与えたりした。

 クローゼットの中の世界の住人達に害意が無い事が分かると、先程まで怯えていた子供はまるで何度も強かに殴られたような紫色の手で食事を受けとったり、クローゼットの中の世界の住人を抱きしめ返した。

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