第三百八十九夜『楽しい観賞会-CCA-』
2023/07/12「夜空」「見返り」「役に立たないメガネ」ジャンルは「ホラー」
「私は悪くない! 悪いのはあの女だ! とっととここから出してくれ!」
そう留置所の
「まあまあ、落ち着いて下さい。我が国の司法は九割が、第一印象と弁護人の腕で決まります。私が来たからには大丈夫……と言いたいところですが、裁判に絶対はありませんからね。とにかく印象が悪くなる様な言動は
そう身なりのよい男性に言い聞かせるメガネ姿の男性は、彼を担当する
「しかしあなたともあろう社会的地位のある人が、一体どうして
弁護士は身なりのよい男性の様子を観察した上で、不思議そうな口調で尋ねた。人間酷い目に
「ええい、だからあの女が悪いと俺は言っているんだ! あんな肌を
弁護士は身なりのよい男性の言葉を聞き、表情こそ崩さなかったが内心絶句と放心をしていた。この様な酷い文句は、それこそ頭の悪いポルノ作品でもなければあり得ない。
「このままでは俺は罰金刑ならまだしも、豚箱にブチ込まれてしまう! 何とか助けてくれ!」
「ええ、把握しております。そのために、私は参りました
しかし弁護士の内心は
(頭の悪いポルノ作品……それだ!)
弁護士の脳裏にはアイディアが
「おう! 何か考えついたのか?」
「ええ、考えつきました。ミスター、あなたは何かしら個人用の
「お前は俺をバカにしているのか? 今時そんなもの、自然保護区に暮らしている人間だって端末の一つや二つは持っているし、俺の様な都心在中の人間なら、嫌でも広告は目に入るわ!」
身なりのよい男性は、突然素っ
「ではこうしましょう。あなたは事実、職場では真面目な人間で通っていると
弁護士の言葉を聞き、身振りのよい男性は顔を明るくした。どう言う意図かは分からないが、この
「それはいい! 俺は真面目な被害者になろう! ところで何故広告の話から、その様な話に?」
身なりのよい男性は希望や喜びを隠さず、そして疑問を口にした。
「ええ、あなたはプライベートの端末を使って、
「ああ、
「それです」
弁護士は我が意を得たりと言った風な表情で、自信満々に言った。
「あなたは真面目な性分で、コマーシャルや宣伝の文句を真に受けてしまう。いいえ、
「そう言う物なのか?」
「そう言う物と言う事にしておいてください」
弁護士はそう説明したが、身なりのよい男性は今一つピンと来ない。
「しかしそれが、俺の無罪にどう
「あなたは真面目な性分が災いして、ポルノ広告が目に入った際に心の奥底で真面目に取り合ってしまった。広告としてはポルノ作品を買ってくれればそれでよかったが、公序良俗に反する邪悪で鬱陶しい広告のせいであなたは無意識に痴漢行為をしてしまった。言わば、あなたも社会の被害者のなのです! これであなたは更生の余地のある、可哀想な被害者として他人の目に映るでしょう」
この説明を聞き、身なりのよい男性は酷く感動した。感動の余り感涙すらし始めた、何せ自分は被害者として
「それはいい! 俺は真面目で影響を受け易い無罪の被害者として裁判当日まで過ごそう! ありがとう先生、あんたのお陰で俺は助かりそうだ!」
そう言ったところで、今日の所の面会は終了した。あとは
そして裁判当日、被告人の態度や弁護士の熱弁に召喚した被告人の
弁護士はああ言ったが、あれは勿論
「いやしかし、我ながら素晴らしい演技だったな。いやなに、俺は社会の被害者なのだし、元を正せばそもそもあの女がまるで俺を誘惑する様な格好をしていたのが悪いんだ」
身なりのよい男性はそう呟きながら、自室に一人で映画を
映画は今
「サメ映画は良い、
「おや、奇遇ですね。あなたもそう思いますか?」
身なりのよい男性は耳のすぐ
「な、なんだお前は!?」
「私ですか? 私は殺し屋を
ビジネスマン風の男は質問に答え、それから質問を返し、そして身なりのよい男性の答えを聞きもせずに、彼のこめかみに思いっきり拳をめり込ませた。
月光も無い真っ暗な夜の海、某所で水死体が見つかった。水死体は魚に
何でも、彼は真面目で影響を受け易い人間である事は周知の事実なのだが、彼の行動を洗ってみた所サメ映画を自宅で鑑賞していたことが判明した。この事から彼の人となりと合わせて、彼は作品の影響を受け、自らサメの餌になろうと自殺を図ったと判断された。
皆、それが真実だと疑わない訳ではなかった。しかし、そう言うものかと納得せざるを得なかった。
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