第三百七十一夜『きわめて科学的でリアリティーの無い話-fairy tale-』

2023/06/21「風」「ガイコツ」「危険な小学校」ジャンルは「ラブコメ」


 私はリアリティーと表現が嫌いだ、全面的に反対している。

 勿論もちろん、例えば絵空事であったとしても、リアリティーが皆無だと描写びょうしゃ陳腐化ちんぷかすると言う言い分は理解出来る。しかしファンタジーや空想科学に過度のリアリティーは必要であろうか?

 例えば宇宙空間は真空なので、音が無い。ならば宇宙が背景のシーンは全て無音で進行しなければならないと言うのは、映像作品にはいささか無粋ではないだろうか?

 例えば火をくドラゴンなんて物が仮に実在するとして、生物の器官は火炎放射器の様には出来ていないのだから、体内が炎に焼かれて死んでしまうだろう。全くもって夢が無い。

 例えばファンタジー作品では頻繁ひんぱんに白骨死体が出て来るが、人間が白骨死体になるのは時間がかかるし綺麗きれいに骨格が残るのもレアケースだろう。

 小学校にテロリストが押し寄せる事はそうそう無いし、仮にあるとしても校舎よりも修学旅行のバスを狙う方がまだリアリティーがあるだろう。


 私に言わせれば、物事に必要なのはリアリティーではなく説得力なのだ。

『人類は音の無い宇宙でも意思疎通や音楽鑑賞かんしょうを可能とする、通信手段やテレパシーの開発に成功した!』

『これらの竜の生態せいたいは他の生物種と大きく異なり、可燃性の液体を口から吐き出し、口腔こうくうの外で発火させて外敵を追い払う。また、この様な生態をしている為、のどの肉は心臓同様に発達した肉質をしており、食肉加工した際には喉こそが最大の美味とされている……』

派遣はけんした斥候せっこうが言う事には、この真新しい洞窟どうくつ粘菌ねんきんのバケモノの巣窟そうくつとなっており、不用意に足を踏み入れた動物は皆、骨だけ残して全身綺麗にむさぼり食われてしまうらしい!』

『実はこの小学校の校庭には、さる組織が隠蔽いんぺいした歴史の暗部に関わる証拠の資料が眠っている! ならば何故大人しく夜に決行しないか? 実は同目的の勢力がの目たかの目競いあっており、この集団は抜け駆けをした形となる! そして武装集団が小学校の校舎を占拠せんきょしている様に見えるが、それは校舎を押さえると同時に目くらましのおとりに過ぎず、本命の部隊は後者の深奥を調査してるところなのだ!』

 これだけでっちあげをでっちあげれば、それらしくも見えると言う物。そもそも科学的だの非科学的だのと言う声がそもそもバカバカしい。

 そもそも科学者とは分からない物を理解したり、新しい物を作ったり発見するのが仕事なのだ。それは間違っていると否定するのが仕事ではないし、否定を仕事にしている科学者が居るとしたら、科学者としては三流もいい所だろう。

 いわゆるレトロフューチャーと呼ばれる鋳型いがたではほぼ必ずロボットが登場するし、それらのロボットには人工知能が搭載とうさいされていない事の方がまれ。しかし当時はロボットなんて物は存在しないに等しいし、人工知能も実用化どころでなかった。しかし今日ではロボットが給仕や工業を行ない、人工知能もそれこそ機械きかいが人間に化ける事すら可能と言われている。

 かつて夢物語だった事象が、説得力をともなう形で現実となって闊歩かっぽしている。これこそが科学以外の何だと言うのだろうか?


「だーかーらー! 私は妖精で、あなたをこの退屈から解放しに来たの!」

 妖精を自称する身の丈十五センチメートル程の少女が、白衣を着た青年の頭の周囲を旋回せんかいしながらそう言った。しかし青年は妖精を自称する少女におどろく様な様子こそ見せる者の、一心不乱にノートに何かを書き込みつつ手元の本やコンピューターをしきりに操作している。

「ダメだ、ダメだ、ダメだ! 何度計算しても計算が合わない! 君はどうやって空を飛んでいる? 構造上君の体格と羽根では、空気の粘性を考慮こうりょしても空を飛ぶ事は出来ない筈だ! それにどうやってしゃべっている? 君の身長と発声器官の規格では、どうやっても俺の様な人間にキチンと人語として聞こえる事は不可能の筈……よもや肉声ではなく一種のテレパシーでコミュニケーションを行なっているのか? それからその服装も不思議だ! 妖精にも人間社会の様な服飾屋が居るなら、服を織る事が出来るのは理解が出来る。しかし君のその半透明のヴェールを持ち合わせたドレスは何だ!? そんなの地球上のどんな物質をどうやって加工したら、そんな物が出来上がる? どう考えても現在の人間の技術では不可能だ! まさか君か君の先祖はコティングリー村の出身で……」

 どうやら、科学者が妖精を認知するにはまだいくばくかの時間を要しそうである。

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