第三百六十八夜『あなたのためを想って-out of friendship-』

2023/06/18「黄昏」「悩みの種」「見えないツンデレ」ジャンルは「指定なし」


 あるところにオーム虹貴にじたかと言う青年が居た。

 虹貴青年は声マネが得意で、ことの外電話越しの声マネは彼の得意とするところだった。何せ電話とはモニターがいてなければ相手の顔を見る事が出来ないし、そもそも電話とは手前の音声を向こうに機械で再現している物なのだ。虹貴青年の声マネにかかれば、相手を誤認させる事も可能だった。


 時は夕方、今虹貴青年は友人の悩みを聞いた結果、その友人の家に居た。何でも彼の親がテレビであべこべに報道されてしまい、被害者にも関わらず加害者としてお茶の間にデビューしてしまい、その結果家に悪戯いたずら電話が多発する様になったらしい。

「もう鬱陶うっとうしいし、腹立たしいし、深夜に電話が鳴るしで嫌になっちまうよ」

 そうボヤく友人のために一肌脱ごうと、解決策をたずさえて来たのである。

「それで何て電話で言われるんだ? お前は犯罪者だから死んでしまえとかか?」

「いや、さすがにそんな酷い事は言わないさ。逆にうったえられそうな事を言う奴だったら、そいつら全員のケツの毛一本残らずむしり取ってやる! ってうちの親は言っていたよ。そうじゃなくて、何というか偉そうに説教をかますんだ……お前はどうかしているとか、こんあに言っているのにどうして世の中に迷惑めいわくをかけるんだ? とか、私はお前の為を思って時間をいてやっているんだ! とかさ……本当に何様だって話だよ……」

 思い出すのも辛いと言った様子で、虹貴青年の友人は苦々しく言葉をつむぐ。

「ほう? 偉そうにか、それを聞けて良かった。おれには良い考えが、お陰さんでアイディアがもっと鮮明せんめいになった!」

 そう宣言する虹貴青年の声は、義憤ぎふんに燃える戦士と言うよりは、新しい遊びを考え付いたいたずら小僧のそれであった。

 二人がそう言い合っていると、早速電話が鳴り始めた。それに気が付いた虹貴青年は電光石火、カメラでったら腕がさながら一陣のしなるむちの様な速度で受話器を手に取った。

「サービス向上のため、こちらの通話は録音させていただいております。電子音の後にご用件をどうぞ。ピーッ! もしもし、こちら濡衣ぬれぎぬ家です」

 虹貴青年はそう口頭で言った。口頭で言ったのだが、その声はまさしく真にせまっていた。そのアナウンスは機械音声以外の何物でなく、その声は電子音以外に外ならず、人間が口から言っているにも関わらず、プログラムが発した一連の音声にしか聞こえなかった。その様たるや、友人はポカンと口を開けてただただ呆然ぼうぜんするしかなかった。

「オーム、お前……?」

 驚愕きょうがくした顔の友人に対し、虹貴青年は鼻に指を当てて静かにのポーズ、そしてその顔は相も変わらずいたずら小僧のごときソレであった。

 しかし虹貴青年はそれ以上何も言わず、受話器を親機おやきに置いた。

「なあオーム、それでどうなったんだ?」

 友人の質問に、虹貴青年はニヤニヤ顔を浮かべながら答えた。

「いや何、この電話が録音されていると思い込んだら切っちまったよ。真っ当な用件ならばおくする事もぇだろうし、おおよそ真っ当な用件じゃなかったんだろう。本当に相手の事を想っての発言なら、録音されようがされまいが言うべきだろうに、録音されてますと聞いて出したり引っ込める様じゃ、随分ずいぶんと後ろ暗い説教もあったもんだな?」

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