第三百六十七夜『猫の声が聞こえた-aborted one-』

2023/06/17「星」「幻」「希薄な脇役」ジャンルは「スイーツ(笑)」


 星がよく見える夜、トイレで携帯端末けいたいたんまつをいじっていたら、猫の声がした。

 アプリケーションの誤作動だろうか? もしくは間違って電子公告を再生しただろうか? とにかく携帯端末から猫のか細い鳴き声が聞こえるのは確かだ。

 私は気味が悪くなり、携帯端末の音量を切った。しかしそれでも猫のか細い声が携帯端末から聞こえるのはまない。

 では携帯端末から猫の声が聞こえるのは勘違いで、実際は家の外で猫が鳴いているのか? いや、確かに携帯端末の中から猫の声が聞こえる! 或いは幻聴げんちょうかと疑ったが、確かに私の耳に猫の声が聞こえるのだ。

 これが携帯端末の誤操作なら大いに分かる。しかし音量を下げても、今こうして電源を切っても携帯端末の中から猫の声は未だに止まない!

 私は気分が悪くなり、トイレに座ったままの姿勢で頭を伏せて目をつむり、両手で耳をふさいだ。

 しかしそれでも猫の鳴き声は止まない。猫のか細い声はまるで、私に助けを求める様でいよいよもって気味が悪い。別に私は猫を虐待して殺した事も、猫を見殺しにした事も無い。もっと言うと猫を飼った事も無く、助けを求める様な声の猫には悪いが、おかど違いと言う他が無い。

「どうして私が猫にたたられている様な事になってる……?」

 そう口に出した時、ある記憶がフラッシュバックした。何でもくぐもった空間では、猫の声と赤ちゃんの声はそっくりに聞こえるらしい。そして風呂場や河川などの水の有る場所では、霊的現象が発生し易いらしい。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 私は何をするでもなく、頭を伏せた姿勢のままで、ひたすら声が聞こえなくなるまで石の様に制止し続けた。

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