第三百六十六夜『埋めた物、見つけた物-economic animal-』

2023/06/16「森」「幻」「燃えるヒロイン」ジャンルは「サイコミステリー」


 ある森の中で、リスが穴を掘っていた。リスは十分な深さを確保すると、どんぐりを埋めてその場から去った。

 リスがこうしてどんぐりを埋めるのは食糧しょくりょう貯蔵ちょぞうのためで、土の中に秘密の保管庫を複数設けるのだ。しかしリスは全てのどんぐりの場所を覚えている事は出来ない、こうしてリスが住んでいる地域には新しい植物が芽吹くのである。


 ある森の中で、野犬が穴を掘っていた。野犬は十分な深さを確保すると、咥えていた肉や骨を埋めてその場から去った。

 犬がこうして肉や骨を埋めるのは食糧貯蔵や防腐ぼうふのためで、土の中に食料を埋める事で腐ったり虫が湧いたりするのを防ぐのだ。しかし飼い犬はえさをもらって生きている、そのため本能だけが残ってしまった結果、食料を埋めた場所がどこだったか忘れてしまうのだ。


 ある森の中で、二人の青年が穴を掘っていた。二人は十分な深さを確保すると、持って来た大きな荷物を埋めてその場から去った。

 帰り道の途中、青年の片割れが口を開いた。

「なあ、穴を掘って埋めるだけであれだけ金が貰えるって一体どう言う事なんだろうな?」

無駄口むだぐちを叩くな、契約内容に荷物の中身を見ないって書いてあっただろう? あれは文字通りの意味じゃなく、加えて詮索せんさくや推測をしないでくださいって意味だ」

 帰って来た返答に、質問をした方の青年は納得が出来ない様な様子を示す。

「だけどよ、気になる物は気になるぜ。きっと痴情ちじょうのもつれの果てにぶっ殺しちまった焼死体とか、持っているだけで罪に問われる薬か文書とか……」

 飽くまで食い下がらない質問をした方の青年に、もう片方の青年はつまらなさそうな表情で言った。

「知らんな。ただ一つ言えるのは、あの荷物の中身は忘れた方が良い物って事だろうな」

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