第三百六十夜『何十何年の夢の終わりに-Ghost School-』

2023/06/09「桜色」「見返り」「壊れた中学校」ジャンルは「ホラー」


 その中学校には奇妙きみょううわさがあった。因みに学校の奇妙な噂と言うのは、どこの学校にでもある様な噂と言う意味だ。

 その学校の噂と言うのは、簡単な様で少し複雑な工程のおまじないをするときらいなあん畜生を神隠しに出来るとか、いじめっ子を摘発てきはつする形で呪文を唱えればソイツは消えてなくなってしまうとか、まさしく学校の噂話としてよくある物だ。

 そして最後に『この噂話は学校の先輩から聞いたのだが、この噂の出どころは誰も知らない』と言う但し書きが付く。ここまでふくめ、よくある学校の噂話だ。しかしこの噂話には二点だけ特異な点が存在した。

 一つは、この噂話は本物だと言う事だ。事実、この中学校には度々行方不明者が出ている。お陰様で、あの中学校は未解決事件が多発すると、周囲で噂されて気味が悪がられている。

 そんな儀式が本当で、失踪しっそう事件じけんが度々で済むのか? とうお思いかも知れないが、その儀式が摘発と言う形を組んでいるのがミソである。行方不明者は素行が悪い生徒ばかりになるので黒魔術の儀式で神隠しにあったとは思われないし、目に余る不良生徒に天罰が下ったのだろうなと、生徒達も行き過ぎた非行に走る事は少なくなる。そんなこんなで失踪事件は忘れた頃に起こるばかりで、頻繁ひんぱんに起こっているとは言いがたい。しかし失踪事件なんて一度起これば忘れられないため、結局はあの中学は呪われているだのなんだのと、影口を叩かれるのだ。

 二つ目の特異な点だが、この噂の出どころは、ある生徒が創立百年目の日に見た事無い女性から聞いたと言う点にある。


 さて、この噂は、儀式は何故成立したのだろうか? ある学校では、いじめっ子を出席停止にしたら学校の雰囲気ふんいきが改善されたと言うケースが存在する。例の見た事無い女性は学校のためを思い、良かれと思ってこの儀式を授けたのだろう。

 それが良くなかった。人間は刃物を所持したら、手に持ちたくなる生物なのだ。平和と言えば聞こえはいいが、その実は冷戦状態に近い。結果としてある程度の周期に一度は神隠しが起きる様な状況が成立した。


 その様な周期を幾度と繰り返し、結果としてその中学校は誰も生徒が入らなくなり、廃校はいこうとなってしまった。

 今では古びた廃墟はいきょの脇に、荒れ放題の元校庭、そしてかつての名残を思わせる桜の樹だけだった。

 謎の女性の良かれと思った儀式の教示は、結果として学校を廃校に追い込んでしまったのである。


 実は、この話には一つだけ欺瞞ぎまんが存在する。

 人間は刃物を所持したら、手に持ちたくなる生物であり、見せびらかしたくなる生物であり、自分で所持し続けたくなる生物なのである。なるほど、この様な儀式を知っているぞと授けたくなるのはまだ分かる。しかし自分に矛先が向くかも分からない儀式を授けるだろうか? 人間とは身勝手で、自分本位で、自分の得になる事を行ない、他者の損になる事をする生物なのである。

 九十九つくも年目が終わった時に現れた女性は、良かれと思って儀式を授けるのではない。恐らく、のためになると思って儀式を授け、結果としての首を絞めてしまったのだろう。

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