第三百五十八夜『殻の割れる音-Eggs 'n Things-』


2023/06/07「桜色」「冷蔵庫」「希薄な山田くん(レア)」ジャンルは「指定なし」


 冷蔵庫からとりの卵を4つ取り出す。

 ふたを落としたフライパンの中では、先程まで桜色だった鶏肉とクタクタに柔らかくなったタマネギとがショウガ風味の割り下でグツグツと煮込まれている。コイツに卵を落として半生に加熱してやれば、料理は完成。今日の山田家の夕食は親子丼だ。

 卵をキッチンの角に軽く叩きつける。すると破砕音こそしたものの、卵に傷が付いた様子が無かった。破砕音がしたのに卵にうまくヒビが入らなかった事はままあるものの、破砕音がしたのに全くヒビが入っていないとは珍しい。

 そう言えば、卵は角ではなく平らな場所で叩くと良いと言う話を聞いた覚えがある。早速キッチンの平らな所に卵を軽く叩きつけるが、今度も破砕音こそいたが卵にヒビは入っていなかった。

 もうこうなると訳が分からない。卵がおかしいのか、それとも卵以外に原因があるのかも五里ごり霧中むちゅうだ。

 俺は頭に血が上るのを感じ、もう一度キッチンの平らな場所に今度は少し強めに卵を叩きつけた。

 すると今度は先程よりもクッキリとした破砕音が聞こえたが、それでも卵にヒビは入っていなかった。そしてその代わりに倒壊音とうかいおんひびき、キッチンがバラバラにくずれ去ってしまった。

「嘘だろ? そんな事が有り得るのか? 俺は卵を割ろうとしただけだぞ?」

 思わず口から疑問が出た。しかし現にこうしてキッチンは崩れていて、卵は無事だ。この卵はキッチンよりもかたく、一キッチンを粉砕する程の強固な戦略兵器と言う事になる……

「そんな馬鹿な事があり得るものか!」

 俺はそう叫びながら、卵を床に叩きつけた。すると四度よたび破砕音が響いたが、それでも卵は傷一つ無い平穏無事であった。

「キッチンよりも床よりも頑強がんきょうなのか、この卵は……」

 その時だった。地面がグラグラと大きくれ、立っている姿勢を保つのが困難な程になった。地震だ!

 いや、それも普通の地震ではない。そう、まるで地殻ちかくに何か強力な負荷がかかった結果、地面を構成するプレートが粉砕され、そして大地が耐えられなくなったかの様な……

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