第三百五十七夜『人工追放刑・零-pyxis-』

2023/06/06「悪魔」「裏切り」「激しい剣」ジャンルは「童話」


 ある時代、ある場所で、あるシステムエンジニアが私刑にいそうになっていた。

「おい、ふざけるな! これはリンチだ! 私は全人類が利便性や恩恵を受ける、素晴らしい発明をしただけに過ぎない!」

 これを聞き、システムエンジニアを私刑にしようとしていた人達は増々いきどおり、拳を振り上げた。しかしその集団のリーダー格らしい人物が彼等を制止し、なだめた。

「結構! それではあなたの言い分が正しいか、我々の言い分が正しいか法廷ほうていで争うとしましょう」

 私刑グループのリーダーらしい人物は満面の笑みで、しかし目は全く笑わずに座った状態じょうたいで冷ややかかつ自信満々に言った。それに対して、システムエンジニアも同じ位自信満々で言い放った。

「どうぞどうぞ、私はこの国に技術革新と利便性をもたらす偉大な発明家だぞ? 現代のプロメテウスと言ってもいい!」

「は、何を言う。お前は多くの人をおとしいれる、社会悪の悪魔だ。現にこうして我々の期待を裏切ったのだしな。お前が法廷で処断され、ブタ箱に放り込まれるのを楽しみにしているさ」


 裁判はシステムエンジニアが口をはさむまでも無く、迅速じんそくかつスムーズに運んだ。

「被告人の発明品は、社会の機能不全きのうふぜんをもたらすことは明白です」

「確かに、私の依頼人は正気の沙汰さたとは思えぬ発明をしました。しかし皆さまもご存知の通り、彼は正気ではないのです。どうか寛大かんだいな判断をお願います」

「この様な常軌じょうきいっした事件は、あまりにも刺激が強すぎる。この裁判は輿論よろんに与える悪影響あくえいきょう考慮こうりょし、非公開にすべきでしょう」

「ええ、異論はありません」

「では判決を言い渡します。被告は無期懲役むきちょうえき、そして正常な判断力を有していないものとして、正常な判断力を取り戻すまで脳病院で療養をする事。これにて閉廷!」

 あまりにひどい言い草だ。普通検事と弁護士が同調するなんて事はあり得ないのではないのか? そもそも私は奴らにうったえられたのであって、警察にパクられた訳じゃない筈だ! システムエンジニアの脳裏にはそんな事が浮かんでは消え、しかし口を挟む事も出来ずに裁判は終ってしまった。


 システムエンジニアは脳病院に監禁されて、頭を抱えていた。

 自分は無知蒙昧むちもうまい曖昧模糊あいまいもこな人類に対し、あかりを授ける世紀の大発明家だった筈だ! それなのに、私を迫害した連中や、警察や裁判官や無能の弁護士にハメられ、この様な不当な目に遭っている。

「この完璧な人工じんこう集合知しゅうごうちシステムが完成したら、どんな文章も画像も専門知識も一瞬で出力出来るし、法律家も裁判官も警察だって不要になると言うのに、全く頭の固い連中だ……」

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