第三百五十二夜『史上最大の釣果-big fish-』

2023/06/01「虫」「化石」「いてつく才能」ジャンルは「ホラー」


 ある所にひどくホラ吹きな男が居た。ホラ吹きと言うよりはうそぶき屋、或いは逆張り屋と言った方が正しいかも知れない。

 ある時、ホラ吹きな男が友人らと海釣りに出掛けた。ところで彼は釣りは専ら河川や釣り堀りでしか経験が無く、海釣りの道具選びやコツなんて物は全く知らない。

 当然ホラ吹きな男は全く釣果ちょうかを上げられず、それでいて彼を誘った知人は釣果を上げていた。バケツの中には、揚げたら美味しそうなアジが数尾釣れている。

「へっ、ただのアジじゃないか。俺ならもっとずっと大きな魚を釣ってみせらあ!」

 ホラ吹きな男は自慢じまんをされて、反射的に出来もしない事を嘯く形でホラを吹く。これを聞いた知人はそうだろう、そうだろうと軽く微笑ほほえむ。別に嘲笑ちょうしょうした訳で無い、彼を招いたと言う事は彼と冗談を交えながら遊ぼうと言うのがこのグループの共通認識だ。

 そんな中、ホラ吹きの男の別の知人の電動リール付き釣り竿ざおに何かがかかった。何事かと釣り上げると、見事なカジキマグロがかかっていたではないか!

「へっ、俺ぁ五つの時からその程度の大型魚は釣り飽きていらあ。今にもっとすげえものを釣りあげて見せるから、待っていろよ?」

 そう言うホラ吹きの男の言葉は出まかせではあったが、彼にとっては嘘では無かった。彼は叶う事ならカジキマグロなんて大物ではない、すごい釣果を挙げる積もりなのだ。

 ホラ吹きの男はえさが悪いのではなかろうかと考え、餌をワームから石油製品プラスチックのルアーに変えて深く糸を垂らした。しかし手応てごたえが全く無い。

 ならば美味そうな生餌いきえに見せかけてやろうと竿を小刻みに動かしてみたが、竿の先に違和感が走る。

「来たぞ! 想像を絶する大物に違いない!」

 そう言って、ホラ吹きな男は竿を力の限り思いっきり巻き上げた。獲物はさして暴れる様子も無く巻き上がり、何事かと見てみると何やら真っ黒い火成岩の様にも見える光沢のある岩が、上手い事くぼみに引っかかる形で針にかかっていた。

「これは何だ?」

「少なくとも魚ではないな」

「いや、これはきっと巨大魚の化石の一部に違いない。つまりこの釣りは俺の勝ちって訳だ!」

 そう喧々諤々けんけんがくがく言っていると、急に船が大きくれた。見てみると船は巨大な渦潮うずしお渦中かちゅうにあり、最早完全に船としての機能を失ってしまっていた。

 しかしおかしい、ここは本来穏やかな海域である。この様な災害染みた物は勿論、船を害する様な規模どころか目視できる程度の渦潮すら発生したとはとんと聞いた事が無い。

 ましてやこの様に、地球規模でバスタブのせんが抜けてしまったかの様な大災害など……

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