第三百四十一夜『続・天網恢恢疎にして漏らさず-Sun Gazes-』

2023/05/21「雷」「ケータイ」「意図的な物語」ジャンルは「偏愛モノ」


 世はモラルの低迷をきわめていた。世界中に不道徳や犯罪が蔓延まんえんし、無法者や犯罪者が我が物顔で跳梁跋扈ちょうりょうばっこし、世のどこにも心が休まる場所は無い。

 確かに世に善人や平和のために努める人も居る、しかしそれ以上に暴力と犯罪があふれていると言うのが事実だ。何故なら考えてみて欲しいが、善人や平和を実現しようとする人が居なかったら悪人は誰を食い物にして秩序ちつじょを乱せばいいだろうか? 悪人が悪人を食い物にする事自体が秩序になり、それが日常になってしまうだろう。もっとも、善人が悪人の食い物にされるのだからたまったものではない。

 平和を実現しようとする人が居ると言う事は、政府や警察けいさつが機能していると言う意味でもある。ただ、それ以上に無政府状態をもたらす暴漢が多いのだ。

 政府はこの状況を重く受け止め、人工衛星じんこうえいせい『お天道様』なるプロジェクトを立ち上げた。この人工衛星により全ての人は常に監視され、暴漢はその場で宇宙からの光線によって処刑されるという具合だ。

 世論や輿論よろんはその様なプロジェクトを実行するより、経済効果を上げたり福利厚生を強化するか税金を下げ、食いっぱぐれる人間や社会的弱者を作らない方針で国を運営した方が良いのでは? と、疑問をていしたが、そんな事より政府に楯突たてつく無政府主義者や暴徒共に鉄槌てっついを下す方が先なのである、人間とはほこりと矜持きょうじの生物であり、められたら終わりなのだ。

 そんな機械きかいによって処刑すると言う方針で、正当防衛や情緒酌量じょうちょしゃくりょうの余地は考慮こうりょに入れないのか? そう言う質問もあったが、とんでもない! 緊急回避や正当防衛だから人を殺しても軽犯罪で済むと、そう豪語して殺人を嬉々として行なうやからも今となっては多いのだ。その様な政府につばする連中をちゅうせず、何のためのお天道様なのだ!

 そんな事をせずに、刑務所で前科者には発信機やICチップの類でもめ込めばどうだろ? そんな意見も有ったが、論外だ。そんな事をしても人間本気になったら自力で発振器の類を肌から切除するくらいの事はやりかねない。加えて言うと、そんな事をするのは人権侵害だ。携帯端末けいたいたんまつ一つ誰かに貸したら犯罪に巻き込まれかねない今の世なのだ、他人に自分の発信機を着ける前科者が出る事位容易に想像が出来る。

 こうしてお天道様は空へ打ち出された。明日になったら、この混沌とした末法の世の中を騒がす不逞ふていの連中はみな一掃されるだろう。他者を押しのけて我を通す連中など、お天道様の怒りに触れて黒焦くろこげになる運命なのだ。

 これで今日から安心して眠る事が出来……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る