第三百三十七夜『インターネット・リテラシー-This message will…-』

2023/05/16「風」「屍」「憂鬱な殺戮」ジャンルは「アクション」


 昨今さっこんのインターネットは真にひどい。

 ある者は人権発言から辞任をさせられ、ある者は軽はずみな憎まれ口で有罪判決、ある者は無遠慮ぶえんりょ横柄おうへいな業務連絡を行なったせいで一生さらし者になっている。彼等は不適切なメッセージを送ったせいで、人生を失ったのだ。

 ならばそのメッセージを消せばいいと、そう考える人も居るだろう。しかしそれが真にインターネットの怖い所、人と人のつながりや情報の共有の簡便化かんべんかが進んだ結果、メッセージは消すと増えるとまで言われている。

 その点私は完璧だ。まず第一に、失言は絶対しない様に心掛こころがける。これは簡単なので皆さんも是非やってみると良い。

 第二に、ここからがミソなのだが、私が操作している全ての端末たんまつには人工知能が搭載とうさいされている。

 この人工知能が何の働きをしているかと言うと、いわゆる二重チェックを担当している。人間はミスをする生き物なのだ、絶対に失言をしない様に心掛けても失言をしてしまう時はしてしまうのだ。そこでこの人工知能の出番と言う訳だ。

 私がついうっかり、失言をインターネット上で行なってしまったと仮定しよう。そのままならば多くの人の目に触れて、さらにその写真でもった人が更に多くの場所へ広めて、さらにその写真を見た人が更に多くの場所へ……と、全ては手遅れ、消すと増える大惨事の完成となる。

 この人工知能の役目はここにある。私がついうっかり失言を行なってしまった際に、あらかじめ全ての文章を監視する形でチェックしており、他人から槍玉やりだまに上げられそうな文章を自動的に消してくれるのだ。

 例えば私が不適切なメッセージを掲示板けいじばんやソーシャルネットサービス等で発言してしまった際には、人工知能がその場にハッキングを行ない、私が発言したのは最初から黒塗くろぬりの伏字だった事にしてくれる。一々個人のサイトや企業のサーバーにハッキングをかけるのは、前者はともかく後者は骨だが安全に対して背に腹は代えられない。

 これが個人相手の電子メールならもっと簡単だ、宛先あてさきとなる端末をクラッシュさせて二度と起動しなくさせている。勿論記憶媒体きおくばいたいも完全に焼き切れる様にプログラムを組んでいる、コンピューターそのものは焼け落ちてもパーツが無事では意味が無い。この手法ならばサーバーにハッキングをかけるよりずっとスムーズに行えるし、何より私は安全だ。

 先日もダイレクトメールで不適切な情報漏洩じょうほうろうえいをうっかり行ってしまったが、この人工知能のお陰でなんを逃れる事は出来た。相手方の端末が何かは覚えていないが、コンピューターなら火をくだけで済むだろう、まあちょっとしたトラブルによる小火ぼやだと思ってあきらめめてもらおう。

 もし仮に宛先が携帯電話だとしたら耳元で爆発や発火が起きたかも知れないし、ひょっとしたら相手方は携帯電話が破片手榴弾はへんしゅりゅうだんごとくなって死んでしまったかも知れないが、不幸な事故だと思って諦めてもらう他無い。

 何せ私の社会的な死を回避するためなのだ、私は私の安全のためならば何だってやる。

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