第三百三十夜『総世界一の話-admitted -』

2023/05/08「地獄」「犬」「新しい地獄」ジャンルは「大衆小説」


 あるところにボノム・デ・ネージュと言うハンドルネームの男が居た。雪ダルマボノム・デ・ネージュとは名乗ってはいるものの、体系はせぎす、顔はスケベなおっちゃんと言ったおもむきで、ボノム・デ・ネージュと言うよりはムッシュ・ムラムラと名乗るべきとでも言った風貌ふうぼうの男だ。

 彼はビデオゲームが趣味で特技で、日夜ビデオゲームのタイムアタックを録っている。今彼が走っているゲームは摩訶不思議まかふしぎと言う往年の迷作なのだが、これがまた食わせ物。

 この摩訶不思議と言うゲームは納期が目前にまで迫っている最中にバグ取りを行なっていたのだが、どうしても間に合いそうにないのではじしのんでバグが残っている物を送って怒られて期日を伸ばしてもらおうとしたところ、何故だか審査に通ってしまい、バグだらけの商品になってしまった。

 ここまでならまだよくある話なのだが、このゲームの開発の対応が語り草となっている。開発陣はこのバグだらけのゲームを、と言い張ったのだ。

 これに目を付けたのがボノム氏である。本来なら六時間は優にかかるこのゲームを、バグ技ありでわずか十分弱でクリアーし、全て仕様なのだからバグ無しだ、レギュレーション違反ではない! と、そう言ってのけた。

 これには記録映像を観た人達も拒否反応を示した。ゲームの開発者がバグではないと言い張っているが、しかしどう見ても正しい挙動とは思えないシナリオのスキップやワープを利用しているのだから、贔屓目ひいきめに言ってもバグ無しレギュレーションではなくワープ有りレギュレーションと言うべきだろう。

 結果としてボノム氏は新しいレギュレーションの第一走者となり、そのレギュレーションの世界記録保持者となった。走者が一人しか居ないのだから一位は必然である。


 ボノム氏はこのプレイを大規模イベントで行なったのだが、それはつまりこの一連の騒動そうどうは多くの人の目に入った事になる。

 その結果、ボノム氏の動向を見ていた一人の女性がある主張をした。ボノムは男性だが、ビデオゲームのタイムアタックがスポーツの様に性別でレギュレーションを分けていないのはおかしい。それならボノムと私は別のレギュレーションになるべきだ!

 繰り返すがボノム氏が世界一位になったのは大規模イベントの場である、なかばお祭り騒ぎのままに結果として世界一位になったのである。

 観衆はなるほど、そう言うものか。と思い、その女性の主張を受け入れた。そのレギュレーションでタイムアタックに参加しているのは一人だったため、必然その女性も世界一位となった。

 その女性が世界記録を取るのを見た、別の人はまた別の主張をした。スポーツの様に性別でレギュレーションを分けるのは結構だが、それならば体重でもレギュレーションを分けるべきではないのか?

 そう語った男性はボノム氏とは反対に体格が良く、ボノム氏とは見るからに体重が全く異なっていた。結果、体格の良い男性も世界一位となった。

 もうこうなると雨後のたけのこである、烏合うごうの衆である、阿鼻叫喚あびきょうかんである。

「性別と体重でレギュレーションを分けるならば、年齢でも分けるべきでは?」

「私は性転換の手術を受けているので、出生時の性別と後天の性別が異なる人のレギュレーションも設けるべきでは?」

「私は両親に捨てられ、中央アメリカの野犬に育てられた過去を持っているので法的には犬なのですが、犬専用のレギュレーションを設けてくれませんか?」

 最早記録や競技に興味があるのではなく、どうすれば運営を言い負かせられるかと言う試みでタイムアタックとは名ばかりの論争が行なわれていた。


「おっしゃ、パラリンピックを例えに出したら足が麻痺まひしている競技者専用のレギュレーションが認められたぜ! ほとんどのビデオゲームは足を全く使わないのにな!」

 そう声高に笑う青年はボノム氏のプレイを参考に、ボノム氏の記録より少々遅い十分程で摩訶不思議をクリアーし、しかし走者が一人しか居ないレギュレーションのため、無事世界一位となった。

「ふーん。俺は何とか十分切ろうと思って練習してるけど、これが中々上手く行かなくてさー」

 そう返すもう一方の青年に、声高な青年は快活に笑いながら提案をした。

「練習なんてしなくていいぜ! タイムアタックってのは早くクリアーするんじゃなくて、どうやってゴネて要求を通すかって種目なんだからな!」

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