第三百二十九夜『かつてあった学術用語-Yes,Bro-』

2023/05/07「晴れ」「トマト」「きわどい主人公」ジャンルは「指定なし」


 教壇きょうだんで歳の行った男性が生徒達を相手に熱弁を振るいながら、板書を書いていた。生徒達はいもを洗う様に皆一様の顔をしていたが、その何割かは晴れた日の様なしゃっきりした顔で男性の言葉を真面目に聞いてノートを取っていた。


 今日こんにちでは使われなくなった学術用語に、優性遺伝と劣性遺伝がある。

 一例を挙げると金髪きんぱつと言う遺伝形質は劣性遺伝であり、例えば両親の片方のみが金髪だと仮定した場合、子が混じり気の無い金髪になる事はまれである。片親だけが金髪で子が混じり気無い金髪と言うならば、もう片方の親にも金髪の因子が存在する隠れ金髪と言う奴でなければ説明がつかない。

 では何故劣性遺伝と言う語が使われなくなったかと言う説明だが、その前に一つ説明すべき事が有る。金髪は間違いなく劣勢遺伝であるが、別に金髪の人間が劣っていると言う事は全く無い。ただ単に、金髪は親から子に受けがれにくいと言うだけの事である。

 劣性遺伝と言う語が使われなくなった理由は、上記の通りである。劣性遺伝と言う語感から、知ったかぶりの誤用をするおろか者が後を絶たなかったのだ! それも優性遺伝と劣性遺伝は高等学校の教科書にっていたにも関わらずである!

 文を読んでいる最中に意味の通らない支離滅裂しりめつれつな文章が目に入ったら、諸君しょくんらはどう思うか? 私の場合は写真をり、この様な教科書も読めない無知蒙昧むちもうない愚物ぐぶつが一丁前に文人をかたっているぞ! と、そう大音声だいおんじょう挙げてネットでさらし者にしたいのをグッとこらえ、こんな想像を絶する様なバカが居たら怖いよね~と、こう言った場での話のタネにする程度に留める……もといすでに数十回行なっている。うむ、偉いぞ私、賢いぞ私、さすが私。

 閑話かんわはこれまで、とにかく優性遺伝と劣性遺伝は語弊ごへいを招く表現であるとされ、顕性遺伝けんせいいでん潜性遺伝せんせいいでんと改められて久しい。

 もっとも、この顕性遺伝と潜性遺伝も聞いた事が無い人も多いだろう。ところで諸君らは野生のトマトを見た事が有るだろうか? 野生のトマトと言うのは赤ではなく緑で、チェリートマトよりも更に小さく、形状もボコボコとしていて丸くなく、ふくらんでいないためにかたいし、加えて味も栄養価も野生の物ははるかに劣っている。野生のトマトと品種改良を重ねたトマトは最早別種なのだ!

 とにかく、優性遺伝と劣性遺伝は過去の言葉となって久しい。信じられない事だが、昔は先述の様に 創作で個々人の顔をデフォルメして個性的に描くと言うのは当時の名残なごりで、実際は人類の顔は今の様に女性ならば女性、男性ならば男性はほとんど同じ顔で、後天性の個人差しか持っていないと言う現象は実は昔は非常に稀な事だったのだ!

 この様な現象は双子と呼ばれており、古典を知っている人からしたら当り前の事だが、とにかく昔は皆の様に同じ顔をしている人間は珍しかったんだ。


 教壇で歳の行った男性が生徒達を相手に熱弁を振るいながら、板書を書いていた。、その何割かは晴れた日の様なしゃっきりした顔で男性の言葉を真面目に聞いてノートを取っていた。

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