第三百十六夜『賢い人だけの世界-=50-』

2023/04/23「雷」「終末」「最高の中学校」ジャンルは「ミステリー」


 泥縄どろなわ玄人くろうど少年はいきどおっていた、彼にとって世の中は思い通りにならない事ばかりなのだ。

 今日は役立たずの後輩こうはいに足を引っ張られ、思慮しりょの足らないバカな同級生の尻拭しりぬぐいをさせられ、理解の無い教諭きょうゆらに連帯責任でしっぽりしぼられた。

 客観的に言って、泥縄少年は半分自業自得であると言える。彼は協調性が無く、傲慢ごうまんで、それでいて前提として他人を見下している。その様な態度で事が上手く運ぶ訳が無いし、そもそも彼が上手くいかないのは彼が原因とすら言えた。

 しかし泥縄少年は中学生なのである、年若く社会経験も無いのである。その様な少年にあれこれと至らぬ点を指摘するよりは、父性的に改めた方が良いと言う方が建設的であろう。なにせ泥縄少年は少なくとも同級生や後輩を見下しているし、ハナから聞くつもりも毛頭無いのである。

 彼はコミュニティー能力こそ不足していたが、勉学に関しては自信が有った。この二つの性質を持ち合わせるが故に、人格が傲慢になったとも言えるだろう。彼の人格を象徴的しょうちょうてきに説明すると、展性てんせいを持ちえないかたいだけの金属の様であった。

 そんな泥縄少年が心身を摩耗まもうさせて帰宅きたくし、自室の勉強机べんきょうづくえに座っている。外はもう暗く、空には星がはっきりと見えた。

「くそ、もうこんな時刻か! 全くあのバカ共のせいで頭の良い俺の人生はグシャグシャだ!」

 窓の外で空に星がかがやいているのを認めて、毒吐どくつく。

 泥縄少年は今日あった事が脳内でフラッシュバックし、増々心をざわつかせた。自分の時間を無為に消費する学友、後輩、教諭達……思い返せば思い返すだけ、無限に腹が立つ。

「全く、バカな人間が多すぎる……どうせ頭の良い人間の害にしかならないんだ、バカな人間は……そうだな、偏差値が五十五未満の人間は全員殺されればいいのに……」

 泥縄少年は窓の外を、空の星や集合住宅の灯を眺めながらそうつぶやいた。

 次の瞬間しゅんかん、稲光が走って何も見えなくなった。閃光が消えると、室内には体の表面が焼けげ、心肺が停止した泥縄少年が居た。

 色々と理由は考えられるが、平均的な解の範疇はんちゅうを出る物は出て来そうにない。

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