第三百三夜『安全な保管方法-accursed-』

2023/04/09「黒色」「屍」「輝く目的」ジャンルは「サイコミステリー」


 あの博物館は呪われている。何かの呪いか、はたまたたたりか。とにかくあの博物館は常に不運に見舞われ続けている。


 ある時は、見事なこしらえの日本刀が盗まれた。見事な拵えとは言うものの、すごいのは拵えだけではない、幕末に多くの犠牲者を出したテロリストが愛用したと言ういわれの刀で、刀身の方も良い出来だ。

 学術的価値があり、見た目うるわしく、それでいて歴史的逸話いつわもあり、どこかあやしくも色気を感じる様な刀なのだ。やはりと言うべきか、盗難被害にってしまった。

 博物館としては保険金こそ受けとったものの、目玉の一つが無くなったのは手痛い損害と言えるだろう。


 またある時は、エジプトのファラオの副葬品とマスクが盗まれた。出エジプト記のファラオと目されるなぞ多きファラオ、スメンクカラーの貴重な資料だ。

 かの謎多きファラオの資料は、この博物館の目玉の一つとして大いに観衆の注目を集めていた。何せモーセとの交渉こうしょうを行なって決裂し、エジプトに多くの災厄をもたらし、その末に紅海で溺死できししたと言う歴代でも最も有名なファラオとも言えるのだ、わざわいに満ちた彼に関する展示品を見世物にしている博物館など話題にならない方がおかしい。

 しかし、彼の魅力的みりょくてきな副葬品の数々や貴金属製のマスクが俗人の琴線きんせんれたのか、あるいは歴史的な価値を見出して好事家こうずかに売ってやろうと画策したか、とにかく盗難の被害にあってしまった。

 博物館としては保険金こそ受けとったものの、目玉の一つが無くなったのは手痛い損害と言えるだろう。


 またある時は、何十カラットも有る大きなブルーダイヤが盗まれた。土台をプラチナで作り、首にかける形に加工された、それはもう見る物を魅了みりょうする様な見事なブルーダイヤだ。

 このブルーダイヤにも謂れがあり、元々はインドの寺院で女王像の片目として使われていた物を盗まれ、その盗人は狼に喰われて死んだらしい。その後もこのブルーダイヤの持ち主達は皆、紛失や法廷闘争や売買等の理由で長く手元に置いておく人は居なかったと記録に残っている。

 この様な見事で、見る者を魅了する様な外観の美術品が盗まれる事は真に嘆かわしい。中には美術館の警備の甘さを責める様な事を言う者も居たし、わざと盗ませて保険金ビジネスをしているのではないか? と疑う者すら居たが、本質的に悪いのは盗人の方だ、美術館側には責められる謂れなど無い。

 博物館としては保険金こそ受けとったものの、目玉の一つが無くなったのは手痛い損害と言えるだろう。


 あの博物館は呪われている。何故呪われているかは知らないし、何故呪われていても平気な顔で営業しているかも分からないが、とにかく確実に呪われている。そうでもなければ、あの様に由緒正しい展示品を次々と盗まれる訳が無い。

 最近新しい展示品が入ったとも聞くが、どうせこれも盗まれる事だろう。何でも、座ると呪いで死ぬとか言う椅子いすらしい。

 しかし呪われているとうわさされる美術館も美術館だが、そんな事より盗人の方だ。何で次から次へと美術品を盗んでいくのか、どの様な動機で、どの様な心境で盗んでいくのか全く想像が出来ない。

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