第三百一夜『砂漠と枯れ木の国-deserted-』

2023/04/07「砂」「地平線」「バカな枝」ジャンルは「大衆小説」


 この世界にヒーローは居ない。

 誰かが困っていても正義の味方が駆けつけてくれる事は無いし、我々の手に負えない様な事態が襲来しゅうらいしても助けてくれる巨人なんて存在しない。


 地上は見渡す限りの一面の砂、砂、砂。故に、我々は地下に暮らす。幸いこの土地は地下資源が豊富で、地下水は勿論もちろんキノコの農場だって作る事が出来るし、牧畜ぼくちくも可能だ。地下で手に入らないのは日光くらいのものだろう。

 しかし我々の生活には大きな問題点が有り、決して平穏ではない。この土地には度々、何処いずこより巨大な枯れ木が飛来する。原因は分からないし、知りたくもない。

 このれ木が空から地面へと着地し、下敷したじきになって死ぬ者も居るが、問題はそれだけではない。この枯れ木が飛来した後は地盤じばんがイカれるらしく、大地が攪拌かくはんされる様に地均じならしされるのだ。

 こんなおかしな話があるものか!? 生物が他の生物や環境を、自分が住み易い様に作り変える事は自然界で多く見られる事だ。、しかし枯れ木が自分の生きやすい様に大地を攪拌したり地均しするだなんて、まるで聞いた事が無い! 私が思うに、あれは枯れ木をかたった何か邪悪な存在ではないだろうか? そうでなければ納得が出来ない!

 私の家族は、私が幼い頃に亡くなった。例の枯れ木に押しつぶされ、攪拌に巻き込まれて私の家族は全員亡くなったと聞いている。実際はただの行方不明かも知れないが、無為な希望など虚しいだけだ。

 私は遠方に住む親戚しんせきに引き取られ、そこで生活を始めて今に至るのだが、今でもここに例の枯れ木の姿をした悪魔が到来するのでは? と、そう考えると恐ろしさに歯が鳴る様だ。


「あー負けちゃった、何回やっても勝てそうにないや」

 二人のわんぱくな子供が、公園で汚れだらけになりながら無邪気に遊んでいた。

「だろー? 俺に棒倒しで勝とうだなんて、百万光年早いんだよ!」

 ガキ大将らしい子供はそう言って勝ちほこりながら、手際良く砂場の砂を両手で一度に土台ごと持っていく要領で手にすくってみせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る