第三百夜『安全な公園-safe and sound-』

2023/04/06「夏」「銅像」「最後の流れ」ジャンルは「ギャグコメ」


 先日、痛ましい事件があった。公園に不審者が侵入しんにゅうし、危うく子供が誘拐ゆうかいされかけたのだ。

 二度とこの様な事があってはいけないと自治会が取り決め、さらには市長選でこの事がピックアップされ、更に更に県知事も前向きに検討けんとうし、国会でフォーカスが当てられて国を挙げた一大議題となった。


 まず手始めに、公園には子供と、その尊属そんぞくしか利用出来ない政策がとられた。公園の中心に設置された保安官姿の銅像が広範囲こうはんいをスキャンし、遺伝子が一致しない人間を見つけるとけたたましいアラームを鳴らすのだ。

 無論、これだけでは不十分と言える。世の中には血のつながりの無い親子も存在する訳で、その場合は親子(親子とは限らないが)に一組の伸縮式の腕輪を着けてもらい、これを着けていれば保安官像はアラームを鳴らす事は無い。この腕輪を利用したい親子はお住いの役所にまでお越しいただければ、気が遠くなる様な量の書類に署名と捺印なついんをしてくれれば無料でお渡しされると言う話だ。言うまでも無く無料である、国のプロジェクトで役所を通しているのだから無料に決まっているし、市民の血税から予算は出ているのだ。

 しかし、この銅像の機能はそれだけではない。例えば、不審者がアラームを聞いても逃げ出さなかったら一大事である。アラームが鳴っている最中、包丁を振り回して子供を襲う不審者なんてものが出るかも知れない。そんな時のために、この銅像には工業用の熱光線を搭載とうさいしている、分厚い鉄板だってあっと言う間に穴を開けてしまう高性能レーザーだ。

 これで不審者の問題は解決した。しかし問題はそれだけではない、子供の安全をおびやかす問題は他にもある。


 まずは樹木だ。あの公園は春には桜がき、それは見事な物なのだが虫害も酷い。桜の木に春は毛虫、夏にはイラガの幼虫がいて、毎年皮膚ひふにダメージを負う利用者が出る。

 これの対策はシンプルに済んだ。桜の樹を全て伐採ばっさいしたところ、毛虫もイラガも根絶したのである。害虫を一掃いっそうするのは真に気分が良い。

 ついでに、アレルゲンとなる花粉をばらく植物も全て根絶した。これでこうアレルギーざいを飲まずとも、マスクとおさらば出来ると言う寸法だ。市民の皆様も、さぞ満足した事だろう。


 問題はまだまだ山積みだ。あの公園はどうやら野良犬が縄張なわばりを持っているらしく、稀に乗り込んで来た野良犬と利用者が遭遇そうぐうすると滅茶苦茶めちゃくちゃえたけるのだ。

 こちらの対策には少々骨が折れた。だが、苦労の甲斐かい有り、素晴らしい対抗策が完成した。公園の中心の保安官像に、野生動物捕獲用棒やせいどうぶつほかくようぼうの先端部分を改造してボーラと投げなわの合いの子の様な物を射出する機能を付けたのだ。

 これで野良犬が公園に侵入したら、保安官像が捕獲紐ほかくひもを射出、これでチャーシューの様な姿になった野良犬が完成すると言う訳だ。無論保安官像には野良犬と飼い犬を識別するすべが無いが、そこは市民の皆様には我慢がまんしていただほか無い。大事の前の小事である、社会の最大幸福である、被害が出てからでは遅いのである。


 問題はそれだけではない、根本から治療ちりょうせねば患部かんぶは一生病んだままだ。

 人間は時に、椅子にすわり損なっただけで脊椎せきついを損傷する、膝下ひざしたほどの浅さの河川でおぼれる、風呂で転べば脳を損傷するし、階段で転んで命を失うケースすらある。

 故に、全ての遊具を撤去てっきょした。見晴らしも良くなり、環境は劇的に良くなったと言えるだろう。遊具の無い公園は公園で無いと、そう異を唱える不穏分子も出たが、運動のためのスペースと休憩きゅうけいのためのベンチがあれば公園なのだ、何の問題も無い。


 最後に砂場だ。あの公園の砂場はかつて猫がフンをしていた事があるのだが、これは猫の糞を媒体ばいたいとする寄生虫や病原体の温床おんしょうとなる事を意味する。

 これを受けて、病原性の動物をシャットアウトするシステムが開発された。これで病原菌びょうげんきんや寄生虫の運び屋たる生物が万一侵入したら、保安官像が前述の熱光線で雑菌塗ざっきんまみれの闖入者ちんにゅうしゃ黒焦くろこげにしてくれると言う仕組みだ。


 こうして、完璧に安全な公園は完成した。では早速、ちょっと散歩がてら園内に入ってみましょうか……

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