第二百九十三夜『後ろの正面、だーれだ?-just looking-』

2023/03/29「部屋」「タンス」「無敵のかけら」ジャンルは「指定なし」


 昔の映画かアニメで見る様な、おまじないの品々を取り扱う小さな小間物屋があった。

 店の中では、飾り気の無いシンプルな黒のイブニングドレス風の姿をしたすみを垂らした様な黒髪が印象的な店主と、どこかナイフの様な印象を覚える詰襟姿つめえりすがたの従業員の青年とが居た。

 しかし店内は閑古鳥かんこどりが鳴いており、従業員の青年はただただ無聊ぶりょうであった。

「ねえねえカナエ、新しい商品が届いたんだけど、ちょっと試してみない?」

 沈黙を破ったのは、女店主のほがらかな声。この店は彼女が道楽でやっている様な物で、世間一般が想像する様な厳密な取り決め事は存在しないルーズな業務だ。強いて言うなら、彼女の経営方針に表立って異を唱えない事がおきてとでも言えるだろうか?

 そんな彼女の手には、一見すると化粧箱けしょうばこの様な物が有った。化粧箱の様なと言う表現を用いたのは、上面に万華鏡まんげきょうの様なのぞき口があり、そして側面の一面が存在しなかった。この五面しか無い化粧箱の様な物体は中身が丸見えであり、内側はけむった鏡の様な銀色になっていた。外見こそ衣装ダンスに置いてありそうな化粧箱だが、形状で言うならば、バラエティー番組で見かける様な、中に何が入っているのか言い当てるゲームに用いる箱が近い。

「これ、なんですか?」

「それは覗いてみてのお楽しみ、いわゆる一種のカレイドスコープと言ったところかしら? いいえ、箱の形だからカレイドボックスね!」

 女店主の陽気な態度に背を押され、従業員の青年はくだんの箱を覗き込んだ。

 すると箱の中に、何やら見た事の無い人間の後ろ姿が浮かんだではないか! 外側からは見えないが、魔鏡かはたまたマジックミラーか、中に像が見えるのである。

 その後ろ姿は男性の物で、衣服は従業員の青年と同じ学校の生徒に見える。しかし後ろ姿だけでは全く判別がつかない。気付くと彼は、箱を両手でつかんでいた状態から右手を離し、箱の側面に右手を突っ込んでいた。

「痛っ!」

 その時、従業員の青年は背後から何か大きな物に後頭部を小突かれ、目から火花が出た様になり、前のめりに倒れて額をしたたかに打った。その様子を、女店主は可笑おかしくてたまらない様子で、笑いをこらえる様にながめていた。

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