第二百八十夜『トカゲ達の斜陽-catcher boys-』

2023/03/15「屋敷」「墓標」「荒ぶるかけら」ジャンルは「SF」


 夕焼けを背景に、アパートの室内に二人の子供が居た。二人は無邪気にカゴの中のトカゲを見せ合っていた。

 二人の親は共に仕事中で、今は二人でアパートの付近の空き地でトカゲを捕まえたり、こうして捕まえたトカゲを見せ合うのが二人の趣味しゅみだった。

 子供達はトカゲの専門家と言う訳では決してなかったが、この近辺は手付かずの土地で、空き地をちょっと探せばトカゲは大量に居た。トカゲと言えば普通は素早いものだが、あみを狙って振り回せば一匹は捕まえられる程度には収集は楽だったし、種類によってはどんくさいトカゲも居たもので手掴てづかみでも捕らえる事が出来た。

 カゴの中は小さな生態系を完成させるのが理想的なのは一種の常識だが、子供達にそんな知識や腕前は無く、最低限そこら辺の土や草を入れて空き地を再現する程度だった。そんなこんななので、カゴの中のトカゲ達は給餌きゅうじこそされていたものの、温度だの共食いだの環境の変化だので数が減ってしまっていた。

「君のトカゲは元気だね、うらやましいよ。トカゲを上手く飼育するコツとかあったら、教えて欲しいよ」

「バッカ、お前あまりたくさんトカゲをカゴに入れるからダメなんだよ。多頭飼いはよくないって、トカゲは飼うなら同じ種類をつがいで二匹、種類によっては共食いをしちゃうから餌をちゃんとやる。そんなところだ」

「でもせっかくだからたくさん飼いたいよ」

 この様な有様である。この子供達のやっている事が悪いとか良いとかはひとまず置いておこう、勿論手際の良し悪しはあるが、子供が動物を集めて飼育する事はおおむ肯定的こうていてきな事と言えるだろう。付け加えると、この子供達が捕まえているトカゲはでも何でもない、そこら辺でよく見るトカゲなのだ。

「だけど、もうすぐここともお別れなのか、すごく残念。来たばっかりの時は何も無い場所だと思ったけど、見た事も無い様なトカゲがたくさん居たから全然退屈たいくつじゃなかったのに……」

「しょうがないだろ、俺もお前も親の仕事の都合なんだから。それにここでの仕事は期間が決まってるらしいし、滞在たいざいが伸びる事は絶対無いってさ」

「そうじゃなくて、そうなんだけど、滞在の予定がそもそもそのチクシュルブってののせいじゃない? あれが無ければもっと地球に居れたのにさ……」

 銀色の皮膚ひふと緑色の髪や爪をした子供達、一人はおよそ十三メートル程の小さなトカゲが入ったカゴを物惜しそうに愛おしそうに眺めた。一人はアパートの窓から夕焼けの空を眺めていた。

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