第二百七十九夜『簡素なインタビュー-Truth is stranger than the others-』

2023/03/14「おもちゃ」「蜘蛛」「消えた流れ」ジャンルは「悲恋」


 全く小説が書けない。

 私のモットーは、『作家は体験した事しか書けない』である。

 故に、作中に水素爆弾を日に二度落とすシーンを書く際には、水素爆弾に関する資料や水素爆弾を扱った作品を集めて精読してから書いた。実際には水素爆弾が登場したシーンは一瞬だったが、我ながら良い出来だったと自負している。

 他にも、殺人事件や暴行沙汰ぼうこうざたを書く際には判例法の資料や裁判記録を読むし、当時の輿論よろんや世論や学術的価値を調べる必要もあった。例えば革命家が主人公だとしたら、当時の常識を知らなければ書く事が出来ない。

 例えば蜘蛛のバケモノと交戦する主人公を書く必要があるならば、蜘蛛の体液が口腔こうくうに入ったシーンを書き、そのシーンを書くために蜘蛛の味を調べたりインタビューする事になるだろう。創作とはそう言う物なのだ。

 他にも、私は新聞やテレビのニュース、ソーシャルネットサービスの情報であったりネットニュースや動画サイトの話題を取り入れる事もある。特にソーシャルネットワークサービスの個人のつぶやきにはお世話になっている、気を抜いた個人がポロッと口にした本音を主人公にしたてあげて、今から冒険や災難が始まると言う形で一筆書くのは実に楽しくて楽だ。

 これまで幾人いくにんにこの簡素なインタビュー(少なくとも、私はそう呼んでいる)を行なって、資料にしたかは覚えていない。事実、私が書いた作品の主人公は、ソーシャルネットサービスで見かけた人か、私と言葉を交わした人が少なからず居る。何せ目の前に面白い人が居るのだ、私の視界に入った方が悪いのだ。

 しかしこの手法には一つ、重大な欠点が存在する。私がインタビューを試みた個人は大抵の場合、行動指針やバックボーンが存在しないのである!

 これが架空の悪人であれば……そう、例えば、『法に背く事はしないが法を悪用する事は誰より上手い詐欺師と言うキャラクターの元に書かれているキャラクター』が存在すると仮定しよう。こう言ったキャラクターは絶対に法的安全地帯から足をみ外す様なリスクは背負わないのだ。

 しかし現実はそうもいかない、興味深い呟きを発信した直後に舌の根かわかぬ内に心変わりをするのはいい、何の信念も指標も無しにいたずら妄言盲聴もうげんもうちょうをするだけである。これでは誰の目にも魅力的に映らないし、誰からも愛されない、まったくもうちょっと魅力的に生きて欲しいものである。

 これが妄言でも妄言多謝もうげんたしゃ妄言綺語もうげんきごならまだいい。そう言ったキャラクターならば、調子の良い詐欺師として目に映るし、そう言ったキャラクターが酷い目にいながら「とほほ」と言えば、それで世の人はガハハと笑うのである。

 しかし自分が悪いと言う自覚が皆無であったり、キレのある罵詈雑言ばりぞうごんや見事な言い逃れも無しでは、そうもいかない。ただただ支離滅裂しりめつれつな言葉を吐くだけでは、魅力的なやられ役にもなれないのである。大根役者である、食アタリ知らずである、すぐおろされるのである。

 何より困った事に、私がこの簡素なインタビューをこころみた人間の大半は原液で使用するにえない支離滅裂な発言なのだ。そりゃそうだ、創作のタネにされる様な発言をする人間なんて、勇猛果敢で知恵者な聖人であったり、天然物の道化どうけであったり、そんな感じの人物でしかあり得ない。

 まっこと、世の人々にはもっと魅力的かつヒロイックに生きてもらいたいものである。


 おや、あなた中々面白い発言をり返していますね?

 あなた、主人公になってみる気はありませんか?

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