第二百八十一夜『哺乳動物の視線-kiss my ass!-』

2023/03/16「虫」「糸」「最強の才能」ジャンルは「ホラー」


 世の男性は女性の胸を本能的に吸い寄せられるのは周知の事実だが、逆に女性はどうだろうか? 言うまでも無い、世の女性も男性の胸に魅力を感じる人は多い。何せ哺乳類ほにゅうるいなのだから当然だ。蛇は牛乳を飲まないし、トカゲはチーズを食わないのである。

 この事を不思議に思う人も居るだろうが、事実そうなのである。本能的に乳房にゅうぼうに引き寄せられ、そしてともすれば視線が胸に行くのが人間なのである。人間は魅力的な胸部に弱く、進化の過程でその特徴とくちょうを得た生物なのである。

 無論胸よりも尻に興味があると言う人も居るだろう。それは即ち、一種の先祖返りに相当する。人間の先祖に位置する吸血鬼がその正体である。

 人間の先祖の吸血鬼と言っても、カニの甲殻こうかくに散乱するカニヒルだとか、アメリカの沼地でジュブナイルにいそしむ少年達をおそうヌマビルの様な原始的な生物までさかのぼる訳ではない。皆様が吸血鬼と言って想像する、極めて人型の外見をした吸血鬼そのものを想定してもらってかまわない。あれこそが人間の先祖、いや、先祖と言うよりは枝分かれした進化の隣人として存在しているのである。

 皆様もご存知の通り、吸血鬼とは吸ケツ鬼と通じ、捕食対象ほしょくたいしょう臀部でんぶを害し、肉を食い破って血をすする恐ろしい捕食者である。

 時たまに胸よりも尻に興奮を覚えると言う人は、生態こそ人間だが嗜好しこうが吸血鬼に近いと言えよう。そもそも母乳とは殆んど血液と同じ成分であり、端的に表現すると乳腺と言う紐状の器官によって濾過ろかが行なわれ、成分調整された血液こそが母乳の正体なのである。

 即ち、我々の枝分かれした進化の隣人は人乳ではなく成分未調整人乳を好む生物なのである。そして、成分調整未調整人乳を好むからこそ胸部に感心が薄いと言う事になる。事実、私がインタビューを試みた展示会で出会った吸血鬼を自称する男性は、血の通っていないシリコン製の胸には全く食欲が湧かない! と、そう証言してくれた。

 あなたが異性の胸に全く関心が無いと言うのであれば、あなたの嗜好は吸血鬼に近いかも知れない。いや、ひょっとしたら先祖返りによって本物の吸血鬼なのかも知れない。

 しかし、その事をじる必要は無い。異性の胸にかれるのも、異性の尻に惹かれる事も、異性の血を飲みたがるのも、その実等しく人間らしい特徴なのだから。


 ミンメイパブリッシング社刊行『その血脈の定め-人類の発生と遷移』より

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