第二百六十七夜『剣の王様の御成り-the sword in the foundation-』

2023/03/01「島」「橋」「輝く剣」ジャンルは「ギャグコメ」


 『その剣を台座から引き抜いた者こそ、次の王である。』

 そう書かれた台座が誰も知らない間に、島の都の広場に突如とつじょ現れた。誰もがその内容を常識として昔から馴染なじんで知ってはいたが、事実として突如誰も知らない間に台座と剣が現れたと言うのは肝が潰れたとしか形容のしようが無い。

 これに多くの人がいたのは言うまでも無い。しくも現在の王位は世継よつぎを作らずに早逝そうせいしてしまっており、王の血縁で無くとも王になれるのか? だの、あれはきっと王の隠し子判定装置に違いない! だの、根も葉もない妄言もうげんや想像が飛び交った。

 これに心穏やかでなくなったのは興奮した民衆ではなく、先王とコネクションを持っていた王侯貴族である。

 次の王位は慣習にのっとれば誰それであると言う、戴冠式たいかんしきの準備をしていたところでコレなのだ。あれは左翼の連中が計画した壮大そうだいな手品に違いない! だの、保守派を一網打尽いちもうだじんにする奸計かんけい相違そういない! だの、恐れるばかりで誰も近寄りすらしなかった。

 そんなこんなで、台座と剣に近づくのは一般市民ばかり、しかし野次馬を一々投獄とうごくしていては国がたないし、そもそも官吏かんりも衛兵もそんなにひまな訳が無し、王侯貴族は台座と剣に挑戦する人々を逐一は把握はあくしてなかった。

 そして肝心の台座の剣だが言うまでも無く、誰にでも簡単に引っこ抜けると言う訳では無かった。万人が挑戦したが、誰も彼もが剣を引き抜く事あたわず、額に汗かきなしつぶて、そんな中一人の異邦人いほうじんが剣に挑戦しようとした。

 この異邦人、名をルキウスと言うのだが、観衆は異邦人が挑戦する事に関しても寛容かんよう鷹揚おうようであった。何せ王様が入れ代るかも知れないと言う危機的状況を受け入れて楽しんでいる、つまりは政府に対して不満を持っていて、新しい王様が誕生する事を願っているのだから、この様な態度も取ると言う物だ。

 ルキウスが台座の剣を引き抜かんとすると、まるで剣はさやから抜ける様に自然に抜けた。

 これには観衆も沸き、ルキウスをまつり上げた。

 それを見ていた衛兵は制止しようとしたが、降っていたお祭り騒ぎに民衆は一瞬で沸騰ふっとうした様になり、衛兵の言葉など誰も聞き入れなかった。

「「彼こそが島の新しい王様だ! 王様をたたえろ!」」

 ルキウスは興奮した民衆にかつがれたまま、王城前まで連れていかれた。

 もうこうなると衛兵も黙って見ている訳にはいかず、民衆を力づくで鎮圧ちんあつしようとしたが、大勢の沸いた民衆には敵わず圧倒あっとうされた。

「「彼こそが島の新しい王様だ! 王城を明け渡せ!」」

 すっかり熱狂した民衆を恐れて、王城は跳ね橋を上げて城門を閉ざしたが、民衆は手斧を投げて跳ね橋を下ろし、木材を即席の破城槌にしてまかり通って行った。

「「彼こそが島の新しい王様だ! 王位を明け渡せ!」」

 これには城内の人々もビックリ仰天ぎょうてんし、大人しく尻尾を巻いて退がる者、どうすればいいか分からずその場に凍り付く者、この無礼な闖入者ちんにゅうしゃ達を怒鳴りつけて解散させようとする者などが出た。

 しかしここまで来た民衆も伊達だて酔狂すいきょう神輿みこしを担いでいるのではない、そもそも政府に不満が無ければここまで大仰おおぎょうな反乱みた事などする訳が無い。よって解散をうながした王族の男性、先王の弟であるオーレリアヌスを取り囲み、蹴ってなぐって棒で叩いて石を投げて殺してつばを吐いた。

「「新しい王様万歳! 新しい王様万歳!」」

 民衆によって空の王座に座らされ、その様子を見ていたルキウスはこれらの民衆に何を言おうか考え、そして意を決した。

「まずは治安の向上と、暴動の予防のために都の衛兵を増やそう。それからこの剣は誰の手にも触れさせない様に水の底に安置する、井戸でも湖でもなく海の底だ」

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