第二百六十三夜『続・効率の良い収穫の方法-Collaborator-』
2023/02/24「虹」「死神」「正義の罠」ジャンルは「ホラー」
「こんばんは、私は死神です。突然ですが、あなたは寿命なのでお迎えに参りました。見逃して欲しかったら私の指示に従いないさい」
その女は霧のように突然私の真ん前に現れ、私の首元に手槍の様な物を突きつけてそう言い放った。
「待って、何ですかあなたは? 一体私に何をさせる気!?」
恐怖と言うよりは、驚きで声が出た。私の目の前のボロボロの
「そうですね、私はあなたが多くの人と繋がっていると見込んで取引をしようかと思います。これから毎日私が指示する通りに情報を発信して下さい、それをサボらない限り、あなたの命を繋げてあげましょう」
燕尾服の女性はそう言うと、来た時同様
そんなこんなで、私はあの燕尾服女から届いた指示に従って情報を発信するのが日課となった。何しろ指示に従えば命を長らえさせてくれると言う話だし、相手は本物の死神なのだから従うしかない。
『これは私の知人から聞いた話なんですが、水銀を毎日摂取すると健康に良いそうですよ』
知人から聞いたと言う件まで含めて発信する事が、燕尾服女の指示だった。私はこの文面から、直感的に同調圧力や右に
私は当初、この様なバカな事を発信するのは嫌だったし、こんな事を発信してしまっては交友関係がおかしくなってしまうと考えていた。一つ私の予想外な事と言えば、面白がってか世間に逆張りをするのが生きがいなのか、私をフォローする人が増えた事か。結果として私のフォロワーは減る以上に増えて、桁違いに増えた。
当然私を小ばかにする様な反応もあったが、私を直接的にバカにする様な事は捨てアカウントを除いて無かった。それもそうだ、面と向かって「だったらお前が水銀を飲んで見ろ!」と言ってしまったら、それは自殺
「素晴らしい! あなたの発信を通じて水銀が有毒なのは歴史の教科書の嘘だと信じて水銀を摂取した人間はのべ十数人です! その成果に免じてあなたの命を繋いであげましょう!」
耳元でそう声がした。しかし横を見ても、そこには誰も居なかった。机に置いた携帯端末が振動し、見てみると燕尾服女からメールが届いていた。
『これは知人から教わった事なんですが、乳児の頃から蜂蜜を食べさせると健康に良いようですよ』
燕尾服女の指示に従って発信を行なう。私が発信を行なうと、何故だか私のフォロワーはみるみる内に増えた。多分、人間やってはいけないと言われている事やタブーに対して肯定的な人間は票を集め
「もうサイコー! あなたの発信を信じ、赤ちゃんに蜂蜜を与えてしまったお母さんは数十名に上りました! これはもうあなたの命を一日繋いであげないといけませんね!」
再び幻聴が聞こえた。うるさい黙れ、底抜けに陽気な声を挙げて話しかけるな。
『これは私の知人の体験なのですが、
「やりましたー! あなたの発信のおかげでビワを丸かじりして敗血症を発症した人間が三桁出ました! これは大金星ですよー! それでは今日も、死にたくなかったらお勤めしてくださいね」
私は幻聴を無視し、携帯端末に届いた人を死に追いやる情報を発信する。今日は、ナツメグの粉末を
私は私が脅されて行なった発信で、他人が何人死のうが知った事ではない。
私は今日も自分の命を長らえさせるために、他人を傷つける情報を発信する。だが考えても見て欲しい、生きるために他人に害を働くのは人としては大なり小なり行なっているのではないか? 私が今やっている事は、他の生きている人間がやっている事と本質的に同じだ。
私はそう考えると気分が軽くなり、そのままエンターキーを押した。
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