第二百三十一夜『改行に関する提言-the spacian-』

2023/01/20「草」「裏切り」「嫌な恩返し」ジャンルは「スイーツ(笑)」


 私の元にまれないし度々寄せられる意見に、もっと頻繁ひんぱんに改行をしろと言う物がある。

 曰く、ウェブ小説とはもっと頻繁に改行をする物らしい。故に、試験的に改行を頻繁に行い、一行毎に改行を行なう事とする。

 寄せられた意見の一つは、以下の様な物だった。


*     *     *


 激辛ね。


 読み難いんだわ。

 改行をしましょう。

 なろう小説文章でググって、どうぞ。


 キノ旅とか読んでみては?


*     *     *


 なるほど、これが改行をしていて読みやすい文章と言う物か。


 恥ずかしながら、私はなろう小説と言う物を当時一つも読んだ事が無かった。


 そもそもの話、私は国語の成績は良いし古典文学こそ好きだが、根本的に読み書きが苦手なのである。


 他人が書いた三行以上あるデジタルな文字を読むと、急に睡魔に襲われるのである。


 しかしながらこの意見は私にとって、これまで存在を知らなかった様な人種との邂逅かいこうそのものであり、創作のタネであった。


 事実こうして短編小説を書いているのだから、文字通り創作の肥やしと言えよう。



 改行をすればいいのは分かった。しかし、幾つか疑問がある。


 一行一行毎に改行をはさむべきだと言うのならば、場面転換を行なう場合にはどうすれば良いのだろうか?


 改行を二度行えばいいのだろうか?


 仮に改行を二度行うのが正しいとすれば、それは単に改行を行ったのか、それとも場面転換を行なったのか一目では分かり難いのではなかろうか?



 私はその疑問が解決するだろうと考え、彼女ないし彼の助言に従ってなろう小説文章と言う書籍を検索エンジンを用いて調べた。


 すると、古典文学を例に提示した形の創作論の教本が出て来た。


 なるほど、この教本の言う通りにしようと思ったが、この教本が引用している作家の書籍しょせきすでに読破している。


 ならば私はこの教本を読む理由はうすいと言う事になるだろう。


 その書籍と同条件の検索結果には、小学校国語の教科書を題材にした教本が出て来た。


 なるほど、私は初心に帰って学び直せと言う事か。


 試しに小学生の国語の教科書を読み返す。


 しかし、私が読んだ『ごんぎつね』や『葉っぱのフレディ』は場面転換以外は一行毎に改行を挟む事も無ければ、一つの文章を細切れに短くなる様に頻繁な改行もしない。



 これはどう言う事だろうか?


 改行をしろと言う助言は虚言妄言きょげんもうげんたぐいと言う事だろうか?


 この助言を下さった方は、小学校の国語の時間を落第しているのではないか?


 この様な事は考えたくはないが、私に助言をしてくださった方は私に憎まれ口を利き、あわよくば乱筆乱文を書かせようと画策していたのだろうか?


 この助言者の事を私は知らないが、うらみを買うような事をした覚えも無い。


 強いて言うなら、私は過去に小説掲載けいさいサイトで数回ランキング上位に食い込んだ事を、胸を張って発言した事位か。



 私は更なる湧いて出た疑問を氷塊ひょうかいすべく、キノ旅なる作品を読み直す。


 この作者の書籍もほとんど読破している。


 故にこの作者が一行毎に改行をしたりしない事、尻切れトンボの短い文章を書いては改行を頻繁に行っていない事は知っている。



 これは困った。


 調べ事をすればする程、何を言いたいのか分からなくなってしまった。


 これがミステリー物によくある信用できない語り部でないならば、何だと言うのだろうか?


 何せこの助言の中に、二つも矛盾を含んでいるのである。


 全てのクレタ人は嘘つきなのである。


 なにせこの方の助言内容は、この方の主張の逆を言っているのである。


 恐らくこの助言者は、自分で言いたい事は分かっているが文章にするのが下手なのであろう。


 そうでなければ、あの矛盾だらけの支離滅裂しりめつれつな文章など書ける訳が無いだろう。



 通常、文章を頻繁に改行し、文章を短く整える必要などは無い。


 例えばこれがコメディ作品ならば、文章を短く整えるのは有用だと言えるだろうが、そうでないならば、その必要は無い。

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