第二百三十夜『霊感療法-ghost vibration-』

2023/01/19「陰」「アルバム」「輝く中学校」ジャンルは「邪道ファンタジー」


 ある寝たきりの人が病に伏せていた。外科医が言う所によると、患者の体にはどこにも悪い場所は無いらしい。どんなに優秀な名医であっても、患部が無ければメスを入れる事は出来ない。

 その患者は心因性の持病を心臓に抱えており、狭心症きょうしんしょう心房細動しんぼうさいどうの様な病状が出るのだ。心臓の薬を処方こそされたが、これが暖簾のれんに腕押しぬかに釘、飲んでも病を治すどころか症状しょじょうを抑える事すら出来やしない。

「もうこうなっては私は死ぬしかない……」

 そう布団の中でつぶやいて寝込むばかりである。


 寝たきりでどんな名医もさじを投げた患者の元に、ウィッチドクターを名乗る医者が訪れた。その医者はウィッチドクターを名乗っては居たが、その実行なう内容はカウンセラーのそれであった。

 ウィッチドクターが施術としょうして患者と話しをする内に、心因性であったり患部らしい患部が見当たらない患者の病気はたちどころに治ってしまうのだ。

 しかしこのウィッチドクターのカウンセリングには裏があった。実はカウンセリングと言うのは周囲が言い出した風評に過ぎず、ウィッチドクターが観ているのはいわゆる霊障、行っているのは対話ではなく霊的外科治療、霊体メスを用いて霊体患部―即ち背後霊とか悪霊とか、そう言った物―を切除しているのだ。

 ウィッチドクターの目方は確かで、悪霊やその類に取りかれた人を見つけては霊体メスや霊体鉗子を用いてパパパッと施術を施しては治してしまうのだ。

 しかしある時、ウィッチドクターは手術ミスを犯した。霊的外科治療をした際に用いた霊体メスが見当たらないのだ。

 霊体メスは霊体のメスである、人間の魂に引っ付いた悪霊であったり人間の魂の腐りかかった部分を切除するのに用いる霊体のメスであり、メスそのものも霊体なので霊感のある人でも無ければ存在には気づかない。存在に気づかないのだから、失せ物となってしまうのも納得だ。

 繰り返すが、霊体メスは魂を切る道具である。そこら辺に転がしておいていい物でないし、ましてや失くしていい物でもない。ウィッチドクターは血眼になって霊体メスの行方をさがしたが、何せ常人には存在に気づく事すら出来ない代物なのだから探し物は困難こんなんを極めた。

 世界は広く、世間は狭い。恥を忍んでウィッチドクター仲間や霊能力者に霊体メスを捜してもらう事も考えたが、そんな事をしてしまっては霊能力者的スキャンダルを招き、霊能力者的バッシングを集めてしまい、霊能力者の仕事は無くなり、霊能力者組合から村八分にされてしまう恐れすらある。その様な霊能力者更迭こうてつってしまっては、霊能力者として食っていく事は出来ない。

 繰り返すが霊体メスを捜すには世界は広いし、霊能力者の世間は狭いのである。その様な醜聞しゅうぶんが広まったら霊能力者的死である。

 ウィッチドクターは独力で捜査を行ったが、しかし一人では見つかる物も見つからない。最後に施術を行なった患者の場所へ行ったが、霊体メスの所在は未だ不明である。

(もしもあの霊体メスが誰かの魂を傷つけてしまったら……)

 ウィッチドクターの脳裏には良くない事が浮かんでは消え、すぐに新しく浮かんだ。最早ウィッチドクターは完全なる神経衰弱しんけいすいじゃく状態だった。

 これを重く見た周囲の人が医者に診て貰う様うながし、無理矢理連れて行ったが患部はどこにも無いのだから解決の仕様が無い。心配したウィッチドクター組合の知り合いもに来てくれたが、悪霊に憑かれた訳ではないのだから適確な施術の仕様が無い。

 ウィッチドクターは最早マトモに起き上がる事も出来ず、知り合いであっても本人と分かるか怪しい程に写真やかつての姿とは変わり果ててしまい、心を病んでそのまま寝たきりになってしまった。


 そんなこんなで、そこの中学の向こうにある病院では夜になると「一本足りない……一本足りない……」と、おぞましい声が院内に聞こえて来るとか何とか……

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