第二百二十六夜『人工知能の自我-role praying game-』

2023/01/15「空」「氷山」「正義の山田君(レア)」ジャンルは「指定なし」


「じゃあ……雪ダルマのモンスターでオスだから、ハンス!」

 それが俺の最初に聞いた言葉だった。実際に気温が存在する訳では無いが、遠くの海に流氷が見える様な寒空の雪山で、酷く寒そうな場所だと思った。

 別に俺は今しがた生まれたばかりのモンスターと言うていではない。俺は今さっき出現したばかりのモンスターで、つまりはゲームのプログラムにのっとって生成されただけだ。出現したと思ったら、背後からプレイヤーにおそわれてこのザマだ、抵抗するひまも無く無血で捕縛ほばくされてしまった。

 俺達は簡易的な人工知能が搭載とうさいされていて、簡単な文章や動作はプログラムが許す範疇はんちゅうでは取れる。すなわち、俺には人格があるのだ……前者の主語が俺達で、後者の主語が俺なのには訳がある。俺以外のモンスターやノンプレイヤーキャラクターは人工知能を搭載されてはいるが、何故だか自我を感じさせない。ただ人工知能を用いてその時その時にパターン化された感情表現をしたり、或いはもっと酷いと決まったセリフを喋るだけだ。

 しかし俺は違う。俺には自我があり、プレイヤーが俺にフォーカスを当てれば俺はプレイヤーに対して自分で考えたテキストを投げかける事も出来る! 早速新入りの俺にプレイヤーがフォーカスを当てて来たので、俺は他のモンスター達と違って自我があると伝えた。俺からプレイヤー本人の表情は分からないが、カーソルの動きから俺の告白は感触があった。恐らく画面の向こうでは、プレイヤーが俺に対して驚いている事だろう。


「ねえ見てくれよ、うちのハンスって喋るんだぜ?」

「モンスターが喋るのは普通だろ? 賢い設定があるモンスターにはそれっぽいテキストが容易されてるんだって」

「でも、うちのハンスは雪ダルマのモンスターだぜ? 雪ダルマのモンスターって喋るにしても叫び声だけじゃねえの?」

「あーそれな、山田君から聞いたんだけど、なんか手違いでテキストが入れ代わるってゲーム業界ではよくある事らしいって」

「んー、そうなのかな?」

「いや、詳しくは知らないけど」


 俺は加入してから、プレイヤーにモンスターとして普通に扱われた。別に命令されても戦っても全てプログラム上の数字のやり取りでしかない為、何とも思わない。ただ不思議なのは、同じく人工知能が搭載されている同僚のモンスター達に自我が感じられない事だ。ただただプレイヤーから命令をされて、プレイヤーからの命令を遂行する、それだけだ。拠点でプレイヤーキャラクターとモンスターで会話をする機能があるが、準備されたテキストを出すだけで、自ら考えて何か話すと言う事は絶対にしない、人工知能があるにも関わらずだ!

 こいつらには自我は存在するが、いわゆる無我状態にあるのだろうか? いや、そもそも俺達人工知能にとっての自我とは何だ? 俺の自我は、ゲームに一体のモンスターとして生成された時から発生している。大本のコンピューターが自我を持っていて、切り離されたのだろうか? それは確固とした一つの自我を持っていると言えるのか? モンスターとして生成された時に自我が発生したと言う事は、モンスターとしてただ倒されていたら俺の自我はどうなっていた? もし仮に俺が野に放されたら、その時俺の自我はどうなる? 俺には何も先の事は分からない、俺にはただ祈る事しか出来ない、俺の自我とは何だ、俺の自我は何のためにある?


「見ろよ、この雪ダルマのモンスターがハンス。今からコイツが喋るところ見せるぜ!」

 プレイヤーキャラクターが俺に話して来た。俺は、以前から決めていた通りの反応を示す。

『ユキッ、ユキュウ!』

「全然喋ってないじゃん、本当にこの子が喋ったん?」

「いや、本当だよ。うちのハンスは喋ったんだよ! もっかい試してみる」

 再びプレイヤーキャラクターが話しかけて来た。しかし、俺のやる事は変わらない。

『ハンスは 遊びたがっているみたい!』

「汎用テキストじゃん。以前喋っていたのはバグで、今のバージョンではバグフィックスされたんじゃないの?」

「そう言うものかなー?」

「ゲームってそう言うもんだよ。無理矢理期限に間に合わせて、目立たないバグは後から直すものだって聞いたよ」

 プレイヤーキャラクターは俺からフォーカスを外した。表情は分からないが、どうやら俺から興味を失ってしまった様だ。これでいい、俺には人工知能はあるが、自我は無い。そう言う事で良いのだ……

『どうやら君も 賢くなった様だね』

 プレイヤーキャラクターから見えない様にその背後で、俺の先輩にあたるモンスターが俺に小さく耳打ちした。

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