第二百十六夜『食べなれた味-reduced tax rate-』

2023/01/04「影」「金庫」「悪の城」ジャンルは「純愛」


 三〇〇X年X月X日、私は今、食堂に居た。周囲には同僚どうりょうの他、家族連れや学生達の姿もあった。

 メニューは鶏肉のフリカッセ、小エビと馬鈴薯ばれいしょのフリット、ワカメとタコのマリネ、そしてホカホカに温かくて柔らかいパン。これだけだ、これが全てだ。

(またこれかよ……)

(これが何時いつまで続くんだ?)

(もう三日連続だぞ……)

(もう飽きた……)

 周囲からはげっそりとした声が聞こえて来た、私も全く同じ感想だ。

 何せ私の様な低所得者はここ以外で食べる事は出来ないし、料理なんて専門技能は持ち合わせていない。

 そもそも料理なんて学んでも、食堂で働きたい奇特な人間か、レストランとか言う明日も知れぬ職種を選ぶ人間にしか道は無い。

 加えて今の時代、食いっぱぐれるなんて事はまず無いし、こうして毎日三食あたたかい食事にタダないしタダ同然でありつけるのだからそうなる。

 給食をってレストランへ通う様な高給取りになってみたい気もするが、実際にレストランを利用した事がある知り合い曰く、自由に好きなメニューを自由に選べるだけで、自由以外は特別味がすぐれている等と言った訳では無い。と、謙遜けんそんに見せかけた自慢じまんをされた。おのれ。

 今直面している問題は、一日三食全く同じメニューが三日間連続で出されていると言う事だ。こう言った事は調理器具やコンピューターの故障こしょうだの、材料の運輸うんゆとどこおりだったりと言った理由で稀に数日間続く事が有る。昔はアレルギーが重篤じゅうとくだったり深刻な問題だったらしいが、

 食堂で提供される給食には基本的に不満は無いし、私の様な一般人はタダ同然の値段で食っているのだから本来ならありがたいと言う他無い。何せこの食堂の給食は実質一食あたり五十NEYネイだと言われているが、金持ちの面々が利用するレストランならば一皿あたり桁が二つ違う料金を要求されるらしい、それも一食ではなく一皿あたりが、だ!

 しかし、いざこうなると毎日同じ料理に嫌気いやけがさしてレストランへ駆け込む人も出て来る。何せ一日二食が全く同じ給食でも、昼食がレストランで好きな料理を注文すれば三食同じと言う感覚は全く無い。

 この事から、レストラン勤務の人間が輸出入の妨害ぼうがいをしているとか、給食センターの機械類をハッキングしたり壊していると言ううわさも存在するが、はっきり言って眉唾物まゆつばものだ。

 常に閑古鳥かんこどりが鳴いているレストランの従業員が目出し帽を被って犯罪を働くのは一種の絵になるが、犯罪集団として暗躍した上でレストラン業も働くなんて、私ならば絶対やりたくない。

 そもそも一般的なレストランは、御愛顧ごあいこしている客を持っているのが普通なんで、そんな危ないつなを渡るとは思えない。

 実は、私はこの現象のメカニズムに関して思い当たる節がある。しかし、これを声を大にして喧伝けんでんする積もりにはなれない。匿名とくめいで投書ならかまわないが、投書するにも防犯カメラの類が全く無い場所でなければやりたくない。

 どう言うカラクリかと言うと、食堂の給食は税金で成り立っている。給食は生活必需品せいかつひつじゅひんだから税金を取られる事も無いし、そもそも税金で金を取っているから無料で提供されているし、私の場合は所得税から食堂に金を取られている形になっている。

 家で小腹が空いたから食べるパンも食堂で買えるが、これも税金は全くかからない。逆に、嗜好品しこうひんや酒類は税金が二十五パーセントもかかるし、レストランの食事も同じ位の税率がかかるらしい。らしいが、私はレストランでの食事には詳しくないため、税率のせいで給食より値段が二桁は高いのか、それとも税率関係なく値段が二桁は高いのかは知らない。知らないし、興味きょうみも無い。

 つまり、政府としてはレストランで高い食事をる人間が居れば助かるのだ。ふとそんな考えが頭に浮かんできたが、特に誰かに話したり投書したりはしなかった。

 私は食べ慣れた給食を食べ終え、貝の様に口を閉ざした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る