第二百十五夜『たからばこ-Present for you-』

2023/01/03「戦争」「笛」「人工の可能性」ジャンルは「ギャグコメ」


 突然だが、究極のプレゼントとは何だろうか?

 勿論プレゼントされる本人が喜ぶ物だとか、或いは心がこもっている物だろう。しかし、心を籠めたプレゼントであっても相手が喜ばないのならば、それでは無意味だ。

 あなたがたも心の籠ったプレゼントをもらったが、今一どころでなくいらない物だった事はあるだろう。そんな経験が無いならば、それは幸運だ。或いは、福袋の中身が大した物じゃなくてがっかりしたと言った様な経験にすり合わしてもいい。趣味の合わない小物や趣味の悪い衣服なんかがいい例だ。

 そもそも万人が喜ぶプレゼントとは何だろうか?無難ぶなんなところを挙げるならば、飲食物はどうだろうか? いいや、飲食物こそ地雷だと言えよう、嫌いな食べ物やアレルギーを発症する食べ物をプレゼントしてしまっては仕様が無い。更に言うなら、素人が作った料理で食中毒に引き起こしたりする可能性もある。

 ところで食べ物をプレゼント結果戦争が起こり、国が滅んだと言う話がある。嘘か真かトロイア戦争のきっかけは、不和を望む者がプレゼントした、たった一つのリンゴだったと言う。なるほど無暗に食べ物をプレゼントするのはよろしくない。

 ならば万人が喜ぶプレゼントとは何かと言うと、現金はどうだろうか? 実際に現金をプレゼントする習慣のある地域も少なくない。いいや、ダメだ。現金を渡されるとなると遠慮えんりょする人が居れば、現金をプレゼントするなど面白くなければ工夫も心も無いと、いちゃもんを付ける人も居る。地域や人によっては良くないならば、それは万人向けとは言いがたい。

 それならば口に入れたりせずに、気持ちがかかっていて、何かしらの形で喜ばれる物、楽器などはどうだろうか? 楽器ならば種類によっては立派なインテリアになったり、逆に種類によっては場所を取らずにはくが付くし、余興に奏でたりしてもいいだろう。いやダメだ。楽器を手にする人と言うのは、得てして三日坊主で飽きてしまったり、逆にスパルタで練習させられ続けるものと決まっている。楽器を見るだけでうんざりするような人も中に居るかも知れない、これではよくない。

 ならば宝石や装身具はどうだろうか? いやいや、高い物だと遠慮されるかも知れないし、逆に安価なガラス製品等ではしぶい顔をする人も居るだろう。いやはや万人向けと言うなら難しい話だ。

 そこで私は考え付いた、究極のプレゼントがある。ここに用意したるは、それはそれは立派な外見の化粧箱けしょうばこ、その外見の立派さたるや、まるでおとぎ話に出て来る宝箱の様! これならば、プレゼントされた側は期待に心をふくらませる事間違い無し! そして何より、まさしく宝箱と言うべきこのデザイン、これならばインテリアとしても完璧だ!

 更にこのプレゼントの肝要なのはもう一つ、中身は空っぽなのだ。これならばプレゼントされた側がアレルギーや食中毒を引き起こしたり、戦争の原因になったり、遠慮して拒否する事もないだろうし、トラウマを刺激する事も無く、立派な外見のインテリアになるのだから渋い顔もされない事だろう。我ながら、完璧なアイディアだ!


 計算外な事が起こった。私の考案した究極のプレゼントが拒絶されたのだ。

 曰く、「何が宝箱だ!こんな空箱を寄越しやがって!」だそうだ。万人受けとは、まことに難しい物だ。

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