第百八十九夜『先祖の祟りが……-The apple and the tree-』

2022/12/02「春」「蜘蛛」「禁じられた小学校」ジャンルは「邪道ファンタジー」


 春先に父が亡くなった。

 父は一言で言うと、最低な男だった。子供の頃から父に良い印象は全く抱いてないし、小学生の時は悪い意味で父性的なあの野郎のせいであれも禁止これも禁止されて全く面白くなかった。別に父は俺の事を思って禁止したのではない、父は他人の趣味であったり流行を理解しようとする気が一切全く完全に無く、そして父は他人が嬉しそうにしているのが嫌いで、それでいて常に誰かに怒りをぶつけていた。

 父の趣味は幾つかあるが、その最たる物は他人の葬式そうしきへ行く事だった。葬式に出席して活き活きしている父を見ると、葬式に出席したいがために身内を殺すのではなかろうか? と、そう考えが湧いてくる程に、父は葬式があると聞くと普段のしわの寄ったしかめ面が嘘の様に喜色満面になった。我が父ながら人間とは思えない。

 父が落第点を取っているのは父親として人間としてだけではなく、夫としてもそうだった。父はよく母に怒鳴り、拳を振う事も頻繁ひんぱんにあり、それを見ていた祖父は「いいぞもっとやれ! 男に逆らう様な女は居てはならん!」と、言っており、警察の世話になる事も少なからずあった。

 しかし父は無能と言う訳では無く、外面は良かった。そのお陰で、父が死んだ際には葬式会場に浮気相手が乗り込んで来た。曰く、自分は父と愛し合っており、父が結婚していたなんて全く知らなかったらしい。知るかよ。

 結局その浮気相手が包丁を手に暴れ回り、葬式会場の関係者達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うハメになった。本当にいい迷惑である。

 しかし父のクソ野郎っぷりは死後にも残った。何やら顔も知らない人間が父の件で俺に文句を言って来る様になったのだ、これは最早父がたたっていると言っても過言では無い。

 俺は父本人ではない、父の罪を子に報いるのは筋違いだ! そう言って引き下がる人間と食い下がるはおおむね半々と言ったところか、取り合えず残り続ける問題は話し合いで解決する事にして、丁重に客人として扱った。ひどつかれた。

 これで話が終わるならば、完結したただの話に過ぎないのだが、そうはあのクソ親父が許しはしない。父が死んでから、うちはポルターガイストだのラップ音だの心霊現象が起こる様になったのだ。父の遺品がある部屋だの、父の使っていた部屋に、自分が死んだ事に気が付いていないのか、もしくは未練タラタラで化けて出たのか怪現象が山盛り発生したのだ。

 俺には心霊現象のプロフェッショナルだなんて知り合いは居ないし、仮にそう言った稼業かぎょうの人物が居ても、はいそうですか。と信じる事は無いと思う。故に、度々世話になっている仏閣ぶっかくを頼った。いや、俺が住職と親しい訳では無いが、顔見知りである事には変わらない。

「それはいけませんね、きっとお父さんはもっと自分をいたわれと言っているのでしょう。毎日三度、お父さんに向ってお祈りないし念仏をささげてあげなさい。それが息子であるあなたに今出来る、最大の親孝行です。なに、こういうものは形式や実質よりも気持ちが肝要ですからね」

 俺は住職の言葉に酷く腹を立てた。何だってあんなクソ親父に祈りの言葉なんて捧げなければならないんだ! そもそもなんで息子である俺が祟られなければならない! 俺は目の前の理解の無い坊主に怒りの言葉の限りを吐きかけ、そして寺から去った。二度と来るかよ、こんな寺!

「なるほど、怒りに身を任せて行動するのは親ゆずりと言う事か」

 俺の背後で坊主がポツりと、そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る