第百八十八夜『利用規約-Demonic Pact-』

2022/12/01「宇宙」「迷信」「冷酷な高校」ジャンルは「大衆小説」


 うちの高校では愚にもつかない言い伝えがある、利用規約全般を読まない人間は地獄じごくに落ちると言う物だ。

 全く持ってバカバカしい! この言い伝えの元締もとじめは、連帯保証人とかそう言う契約をするなと言う教訓話の積もりで流布した積もりだろうが、利用規約全般に関してそんな事を言うのはナンセンスとしか言いようが無い!

 例えばこのソーシャルゲームのアプリ。サービス終了時にはデータやアカウントが無くなるだの、ゲームを通して犯罪行為をしたプレイヤーはアカウントを凍結されるだの、人や社会にとって当り前の事しか書いてない! そんな物を一々最後まで読んでいる人間なんて、全体も一パーセントも居ないだろう。

 そもそもの話、そんな手法で個人情報を悪用しようとしたり、人をおとしいれる様な企業があったとしても、昔から悪事千里を走ると言う奴だ。今は口頭だけでなく、ソーシャルネットサービスを介した情報伝達もあり、そもそも今例に出しているのはそのソーシャルネットサービスを媒体ばいたいにしたソーシャルゲームなのだ。下手にハデな悪名になる様な事をしたら、それこそ明日にはネットニュースになっているだろう。

 それとも何か、被害者は全員死んでいるから被害届ひがいとどけも出せていないのだとでも主張する積もりだろうか? それにしたって、不審死ふしんしや行方不明者も居ないのだから破綻はたんしている。

 兎にも角にも、今や携帯端末を持っている以上何かしらのコミュニケーションツール足り得るアプリケーションを使っているのは普通であり、そう言ったコミュニティであーだこーだとその折その折に利用規約を一々最後まで読む人間なんて殆ど居ないと俺は断言する。むしろそう言ったアプリケーションを導入する度に、一々利用規約を最後まで読んでいる人間は宇宙人だ、地球の常識じゃない。

 現に、俺は今日事前登録が始まった新作ゲームを携帯端末に落した。利用規約は勿論あったが、最後まで読む事無く同意した。チラリと目に入った文章は、やはり先述の通りにどこの企業とも同じ内容の金太郎飴きんたろうあめごとき物だった。因みに俺は金太郎飴が大嫌いだ、あんな物喜ぶ奴の気が知れない。

 こんな事で地獄に落ちる様な目にうなら、落として欲しい物だ。繰り返すが、携帯端末を使っている今日こんにちの人類の九十九パーセントが一斉にハメられてみろ、消費者庁しょうひしゃちょうにでも新聞屋にでも駆け込まれて悪事はたちまち露見ろけんすると言う物だ。


 ここは月にある教育機関、教鞭きょうべんっている人物はどこか人間らしくない人物で、黒々としたじれた角で黒板を傷つけないようにプロジェクターを指差し棒で示しつつ器用に板書を書いていた。

「この様に、人間はみな同じ様に簡単に警戒心を失い、その警戒心の喪失そうしつ伝播でんぱしていきます。それでは、こう言った人間の性質に関して気が付いた事がある者は居ますか?」

 角の生えた先生がプロジェクターに映った映像を停止しつつ、生徒たちに質問をする。教室では角の生えた人の様な生徒や、深海生物の様な様相の生徒が、挙手をして答えようとした。

「それでは月海つきのうみさん、どうぞ」

 角の生えた先生に指され、深海の様な顔色をしたクラゲの女学生は微笑ほほえんで手を下ろす。

「はい、はい! 人間社会にもぐり込んで、人間が油断したすきたましいを抜き取るのが有効な手段だと思います!」

「素晴らしい! 月海さんは将来立派な人類の敵サタンになれるでしょう。勿論今挙手した生徒は皆、人類の敵としての素質があると言えます。ただし、事前に人間達に警鐘けいしょうを鳴らし、契約けいやく内容をキチンと説明した上で魂を抜き取る様に! それが出来ずに、暴力で何かを奪う様では人間と同じですからね。それでは映像を再生して、この後この学校の人間達がどうなるか巻きで観てみましょう」

 角の生えた先生は生徒達に微笑みかけて、プロジェクターに映る映像を再生させた。彼らの息がかかった利用規約とは知らず、何が書かれているか分からない利用規約同意したくだんの男子生徒は、その後……

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