第百八十二夜『コタツの話-Naked Singularity-』

2022/11/24「動物」「コタツ」「最後の魔法」ジャンルは「ギャグコメ」


 コタツには魔力があると言われているのは、みなさんもご存知だろう。今丁度私もコタツの魔力でコタツから出る事が出来ない。

 無論、魔力と言うのは言うまでも無く比喩ひゆ表現だ。実際にコタツが魔法で動いているだの、結果として魔法を使っているだなんて話は聞いた事が無い。

 コタツに入ってテレビのリモコンを握り、ミカンを食べながら時間を過ごす事のなんと幸福な事か! いや、テレビは今観たい番組がやっていない。ならばテレビ以外の娯楽ごらくに興じるかと思ったが、コタツの居心地の良い事はこの上なく、他の事をするのはまるで億劫おっくうだ。

「今日はこのままコタツで寝ちゃおうかな……ブランカはどう思う?」

 コタツの中をのぞくと、そこには愛猫のブランカがポカポカと温まりながら眠っていた。うむ、何度見ても餅の様な猫だ。

 テレビは退屈な番組しかやっていないので、携帯ゲーム機をコタツに居るままに興じる。それはそれとして携帯ゲームの内容を電子掲示板に書き込んだり、攻略情報を調べる為に携帯端末けいたいたんまつを操作する。しかしこうなって来ると、端末一画面いちがめんでは不便さを感じるので、薄型コンピューターを引っ張り出して電源をともす。それはそれとして、ミカンだけではいささか空腹を覚えるので、電気ケトルを用意し即席麺そくせきめんを調理する。うむ、至福天。

 コタツとは幸福で引力だ。こうして私は幸せだし、身の回りの品物やブランカをも吸い寄せているのだから、よほど強い幸福と引力を放っているに相違ない。そう、まるで部屋中の持ち運べる物品全てがコタツの上や周囲に集合した様だ。

「ブランカお腹空いた? そろそろカリカリ食べる?」

 私は今さっき即席麺の食事をったが、ブランカは何も食べていない。普段のブランカなら、お腹が空いたらにゃあにゃあ言って擦り寄って来るから分かるものだが、そろそろブランカが要求するだろうなと、そう思って私はコタツをめくった。

 コタツを捲ると、ヒーターの下に宇宙が広がっていた。いや違う、これは宇宙じゃなくて闇だ。コタツから生じる引力が、余りにも多くの物を引力で一箇所に釘付けにしたせいで小型のブラックホールが完成していたのだ!

 ブランカは宇宙を背景に、虚を突かれた様な不安そうな顔を浮かべ、コタツを形成する布団の裏側に爪を立てて小型ブラックホールの引力に逆らっていた。

 私は小型ブラックホールの引力でこいのぼりがごとく伸びつつ助けを求めているブランカを救いだし、コタツを閉じた。

 小型ブラックホールの吸引力や仕組みなんて知らないし、そもそも直感でアレを小型ブラックホールと呼称こしょうしたが、アレがブラックホールなのかブラックホールに似た性質の何かなのは分からない。分かるのは、私はこうしてブラックホールの影響を受けない事だ。恐らくはあのブラックホールもどきは体積の大きい物は吸い込めないのだろう、ブランカが飲み込まれそうになりつつも、私は全く影響を受けていない事から導いた推測だ。しかし仮にもアレがブラックホールだと言うのなら、どんどん周囲の物を吸い込んで肥大化するのではないか? と言う、一抹いちまつの不安を覚えた。

 私はコタツがその魔力や引力からブラックホールを生成するのならば、何をどうすればいいか考え、答えを導きだした。

「コタツをコタツたらしめているのは暖房機能だ!」

 コタツのスイッチを切る、するとコタツの内側でなびいていた布団が静まり、コタツの中のブラックホールは消滅する……と言うのが私のプランだった。

 しかし、私がコタツの電源を切ると、コタツはひっくり返って先程より一回り肥大化させたブラックホールを露出、ブラックホールはコタツを丸呑みすると、自分自身を喰らう様にブラックホールのふちがブラックホールの中身に噛みつかれる様な様子でみるみる小さくなって立ち消えてしまった。


 私から言える事は一つ、コタツの周囲に物を置き過ぎてはいけない。

 今回は運が良かったが、調べてみたところ、似た様なケースで行方不明になる人は年間八百人程居るらしい。

 遊び半分でコタツは使うな。

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