第百五十六夜『わざとらしい写真・裏-Truth is stranger than fiction-』

2022/10/23「海」「車」「危険な主人公」ジャンルは「偏愛モノ」


 何気ない日常を捉えた一枚。しかし手すりの向こう側には、長髪を垂らして顔の伺えない女性が宙に浮かんだように確かな存在感を放ってたたずんでいた。

 はっきりと目視出来る事もあり、この女性は非常に強いうらみを抱いた悪霊あくりょうに違いない。持ち主は早急に写真を手放し、おはらいを受けた方が良いだろう。


 誰もが携帯端末けいたいたんまつを持ち、写真を撮ったり画像を加工出来る時代。そのカメラの性能も向上し強いストロボも無くなったため、ほこりに光が反射した結果異様な物が写真に写ったなんて事も無くなった。更には現代の携帯端末には顔を認識する機能が付いて久しい、一見人の顔に見えるが顔ではない物にはピントがかかる事も無いのだ。

 そんな時代、私の趣味は心霊写真の作成にあった。これが思いの外ヒットし、試しに広告収入を伴う動画サイトに投稿してみたところ、すんなりと収入が認められた。

 ただし私は嘘はついていない。私が作った写真や動画は『信じるも信じないもあなた次第!』だの『本物か否か?』だの『真実か目の錯覚か?』と言った文面を必ず入れている。つまり、私はうそを動画にし、これは嘘ですよーと注意書きをした上で動画を挙げているのだ。私は何も悪くない。

 それから、これはネットで活動している人全般にある問題なのだが、私の活動はリアルバレしている。本名で活動し、あわよくば書籍しょせきも出そうと考えており、その際に本名でないのは想像してみると少々辛い。例えば御手洗みたらい舐蔵なめぞうみたいなハンドルネームを酒の席で考案し、これを適用してしまったらとても辛い。更に言うと私のネーミングセンスはそこまでよろしい方は言い難く、例えばゴーストバイブレーション松下と言った様な心霊写真家に相応ふさわしい名前を考案しても、それを名刺に印刷して手渡す事を考えるととても辛い。なので、本名で活動する事を選んだのだ。

 つまり私の活動は知人に筒抜けなのだが、それで少々面倒くさい事になったのだ。

「動画観たぜ! ところで???みさきって知ってる? 何でもあそこって海で溺死できしした霊が出るらしいぜ? よかったら今度の金曜日の深夜にでも行かないか? なぁに、足なら俺が車を出すからさ!」

 どうやら私の動画にすっかりだまされ、本物の心霊写真と思っている口らしい。私としては、いかにも出そうな風景さえ拾えれば心霊写真(偽)の完成なのであって、自分で写真を撮る必要など全く無いのだ。まさしく有難迷惑ありがためいわくと言う他無い。

 そんなこんなで撮った写真なのだが、確かにうっすら海の方に何やら人型の何かが写っている様に見えた。

「またか、本当に有難迷惑だ」

 写真に妙な物が写っていたから、お祓いを受けた方が良い。これは他ならぬ私が言われた言葉だ。家の近くの仏閣ぶっかくでお祓いを受けた際に知ったのだが、どうやら私は霊媒体質れいばいたいしつの気があるらしく、カメラを持ったり向けられたら霊が寄って来るらしい。住職じゅうしょくの言う事には、息子さんも似たような体質で幽霊に好かれているらしい。つまり、私が撮る写真は十中八九心霊写真になると言う訳だ。

「すまんが、民衆はお前らみたいに存在感の無い心霊写真には興味が無いんだとよ」

 私はうっすらと本物の幽霊が写った本物の心霊写真を丸めて捨て、パーソナルコンピューターからネットワークにアクセスし、他人が撮った写真を切ったり貼ったりし、明日の分の偽物の心霊写真を作った。

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