第百四十六夜『不治の病-the Immortals-』
2022/10/12「屋敷」「残骸」「最後の物語」ジャンルは「時代小説」
あれはまだ私が今の住所に越す前の話だ。
私は当時、ある時は薬草園をいじり、ある時は森で薬掘りをして暮らしていた。私が作る薬はよく効くと評判で、村中で私は持ち上げられた。
私は
また、自惚れている訳ではないので、出来ない事を
私はより良きを望むが、出来ない事を嘯く事は無く暮らして来た。それが自分のためであり、自分のあり様なのだと思って生きて来た。
それからしばらく後、父が亡くなった。
私は父を亡くした後、森の中で薬掘りをしている時に素敵な集合住宅を見つけた。私は孤独の身で身軽だったので、引っ越しは滞りなく進んだ。
集合住宅は森の中に
屋敷の雇われオーナーの言う事には、入居者はいつでもウエルカムで、庭も中庭も好きに使ってくれていいし、何より薬剤師さんとお話するのは初めてだそうだ。
私がこんな森の中の大きな集合住宅に住んでいるにも関わらず、薬剤師と話すのが初めてと言った事に疑問を持ったが、オーナーさん曰く、ここの住民は怪我も病気も全くしないらしい。いや、ちょっとした病気などには
私はその事に違和感を覚えたが、ここの周囲の環境や建物の内装や外観を魅力的に思い、この場所に骨を埋めても良いとすら思った。
それから時は流れた。人類の平均寿命は大いに伸び、食糧問題にエネルギー問題と言う言葉が生まれ、核家族あたりの人数が多い事はステータスとなり、やがて恥ずべき事と言う認識になり、人類はあまり子供を設ける事はなくなった。
そもそも人間は死にたくないのだ、それは言うまでも無く私もそうだ。点と点を繋げれば、当然の帰結と言える。
人類はあまり子供を設けなくなり、そしてあまり死ななくなった。
端的に言うと、私が引っ越した屋敷の連中は一種の病気だった。うまく言えないが、人間を人間たらしめている部分が壊れているのだ。
この病状はこの屋敷がもたらすのか、それともこの屋敷を取り囲む雑木林がもたらすのかは分からない。何せこの屋敷の外は夜になると酷く冷え込み、野宿に適していない。しかも雑木林の周囲を探索しても、いつの間にか円を描くように歩いたのか屋敷の元へと戻って来てしまうのだった。
屋敷の中庭は酷く冷え込まないのが不幸中の幸いか、私は薬草園を作る事は出来た。しかし、私の薬は連中の役に立つ事は殆んど全く無かった。雇われオーナーさんが言う様に、連中は怪我や病気を
それだけではない、この屋敷の中では人は老いず、子供が産まれないのだ。同じ階の一部屋には
人間でないから人間のペースで子供を産む事は無いし、人間でないから人間の速度で老いる事も無いし、人間でないから人間がそうである様に死なないのだ!
同じ事が私の身体にも起こっていた。私の肉体は老いる事を忘れてしまった様になっていて、それでいて時間が止まった様にはなっていない。恐らく何かの拍子で風邪をひいても、時間が止まった様にそれきりと言う事も無く、一日眠ったら治るだろう。
断言するが、この屋敷の連中は一人残らず病気だ。この奇病が人間を人間たらしめる性質を不能にしているのだ! 故に、私はこの病気を治さねばならない。
私はいつの日か、必ずや不老不死を治す薬を作って見せる! 幸い、時間は有り余る程有るのだから。
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