第百四十夜『わざとらしい写真-photograve-』

2022/10/05「夜」「見返り」「観賞用のかけら」ジャンルは「ギャグコメ」


 今日もまた、私の写真が否定されてしまった。写真を選んだ人の弁曰く、わざとらし過ぎるらしい。

  一体何がいけなかったのだろう? ポーズか? もっと控えめに見返り美人風にでもしてみるべきだろうか? 被写体と全体の構図か? アイテムを使ってポーズを取るなどした方がよく見えるだろうか?

 しかし、わざとらしいと言って否定されたそれは、私の個性と言っても過言ではなく、それを引っ込めるのは自我の否定と言ってもいい。

 もっと前衛的に! もっと大々的に! もっとアピールを! そして出来る事ならテレビでゴールデンタイムで大々的にお茶の間に! 


 すっかり辺りが暗くなり、しかし街灯がいとうに照らされて明るい通りを、セーラー服を着た女学生が二人並んで歩いていた。二人は手に携帯端末けいたいたんまつを持ち、互いに見せ合いながら額を寄せ合って話していた。

 辺りに人の足はまばらで、彼女らが横に並んで携帯端末を見せ合いながら歩いていても、周囲に注意をする人も迷惑がる人も居なかった。

「どう? 映ってた? ネットにせたら話題になりそう?」

「ええ、映ってた映ってた。これなんてどうかしら?」

「うわ、何それ酷い。そんなくっきり映る訳ないじゃん? 普通後ろの方にチラッと映るとかじゃないの?」

「いや私に言われても……噂は本当だったけど、まさか被写体よりも前に映るとは思わなかったわ」

「うん、聞いた話とイメージ違うね。あの場所で人物写真を取ったらバンバン心霊写真が出来るよー! って、頻度ひんどがすごいって意味に聞こえるよ」

「ええ、まさか心霊写真の質がすごいとは思いませんでした。確かに、これでは写真加工を疑われそう。見てください、このくっきりさ」

「さぞかし強い怨みとか心残りがあるんでしょ、そうとしか思えない。ねえ、この人はどんな心残りがあるんだと思う?」

「そんなの分かる訳無いわ。生きてる人間の心も碌すっぽ分からないのだもの、増してや死んでる人間の心なんて分かる訳ないじゃない」

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