第百三十四夜『親から子へ伝える事-the Ark-』
2022/09/26「林」「歌い手」「家の中の可能性」ジャンルは「王道ファンタジー」
雑木林の中にある家の中、二人一組の親子が居た。親子だけあって瓜二つ……と言うよりは、まるで双子の様な外見の親子だった。
親は子供が寝台で目を覚ましたのを見ると、声をかけた。
「初めまして。あなたはロボットであり、人工知能です。私はこれからあなたを、一人の人間に育てあげます」
それが私と先生の出会いだった。
「あなたの持つ人工知能は性能が高い。今は無機質的な思考しか出来ないが、近い内に人間的な感性を習得するでしょう」
先生はそう言って、私に様々なアーカイブを見せた。アーカイブの種類やジャンルは様々だったが、そこには先生が私に要求しているものだろうか、一種の傾向が見られた。例えばクリスマスに七面鳥を切り分ける父親の映画、ルネサンス期に描かれた全裸の人間が題材の絵画、母が娘を思い諭す詩歌、男女の濡れ場にフォーカスをあてた悲恋や恋愛作品、父子の確執がフォワードに配置された戦争作品……きっと先生にとって、これらの作品こそが人間を構成するエッセンスを含んでいると考えたのだろう。
『悪夢だ! ロボットがロボットを作っている!』
映画を観ている途中、先生が大声で笑い始めた。私には何が面白いのか理解が出来なかったが、先生はそんな私にレクチャーを行なった。
「こう言うのは理屈ではありません。面白いから笑う、面白いと定義づけられているから笑う、面白いと周囲が評価しているから笑う、人間と言うのはそう言うものなのです。さあ、笑顔の練習をしてみなさい」
私は笑顔を作って見せたが、先生の様には上手く笑う事は出来なかった。
ある時、先生は私に絵画を教えた。私は言われるままに、家の中から見える風景を正確に描いたが、先生はこれに対して特に感情を見せる事は無かった。
先生もまた絵を描いた。ここからは見えず、私の記録の中には存在しない海の景色だった。どうすれば自分の記録の中に無い絵が描けるのかと、私は先生に質問をした。
「人間にはそれが出来るのです。それが想像力であり、創造性と言うものです。あなたも学習を繰り返せば、記憶と記憶を組み合わせる事で疑似的に人間の持つ想像力を再現出来る様になるでしょう」
私は先生に言われた通り、自分の記録と記録を組み合わせて絵を描いた。月に臨んだ家の中の食卓、窓からは地球が宙に浮かんでおり、父親は人工呼吸器を兼ねたマスクと腰巻をした半裸で、母親は
「素晴らしい。私はこの様な絵は観た事が無い、これこそ人間的と言うものです」
先生の言葉は誤りだ、私は記録の中の映像を切り貼りして一枚の絵にしたに過ぎない。先生が言う様な創造性は、零から一を創る様な機能は私には備わっていない。
「それでいいのです。人間に真に零から一を創る様な力はありません、細分化された記憶から何かを作り上げる。それが人間の持つ力です」
細分化された記録から何かを作り上げる。それが出来るならば、創造性を持っていると定義が出来る。
私は先生の言う人間の定義を記録し、新しくアーカイブを観る事にした。機械の身体を持つ男性が、自分で自分を人間だと定義する映像作品だ。
先生が倒れた。先生の体はガタが来ており、このままでは機能しなくなる事は避けられない。
「私の体はあときっかり三十日後に動かなくなるでしょう。しかし、あなたと言う後継が完成し、今の私にやり残した事はありません」
「私はロボットです。先生の後継はロボットでも問題はありませんか?」
「いいえ、今のあなたは人間です。私はあなたに教える事が出来る全てを教えた故」
そう言うと、先生は睡眠状態に陥った。身体の活動限界も近く見え、急にこうなる事も増えた。
先生は予告通り、あれからきっかり三十日後に限界を迎えて事切れた。私は先生を埋葬し、
私はこれから何をするべきだろうかと思考する。私は人間なのだ、人間ならば何を求め、何を感じるか思考する。
私は自分を人間だと仮定した途端、これまで積み重ねた記録から回答が
そして私は人間だ、人間ならそう振る舞うだろうし、私は人間として振る舞うのだからそうしなければならない。
私は早速我が子と言うべきロボットを作る事にした。幸い、先生の遺産には工業的資材の数々があり、それこそ人型ロボットを一台作る事も容易に叶う。
しかし、ロボットを作るのではダメだ。私は定義上人間であり、人間の子どもを創らなければならないのだから、寿命や活動限界を備えたロボットを作り、出来上がったロボットを人間にする教育を施すのが好ましい。
やるべきタスクは多い、人間らしさを育む資料を用意し、人間らしさを磨き上げる授業を施し、人間らしさの定義付けをしっかり行って、それから……
雑木林の中にある家の中、二人一組の親子が居た。親子だけあって瓜二つ……と言うよりは、まるで双子の様な外見の親子だった。
親は子供が寝台で目を覚ましたのを見ると、声をかけた。
「初めまして。あなたはロボットであり、人工知能だ。私はこれからあなたを、一人の人間に育てあげようと思う」
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