第百三十三夜『雲の向こう、もの隠し-up-』
2022/09/25「雲」「魔女」「いてつく遊び」ジャンルは指定なし
二人の青年がビルの屋上、重そうな荷物と大量の風船を運んでいた。時刻は深夜、まだ暁には遠い。
「なあ、いつだったかテレビで観た話なんだけどさ、人間が風船で飛ぶって可能なのか?」
「ああ、あれな。結論から言わせてもらうと、可能だ。色々と問題はあるが、エビデンスもある」
「エビデンス?」
青年の片割れが、風船をヘリウムガスで膨らませながら腑に落ちない様子でオウム返しに聞き返す。
「ああ、生還した例としては、首都から隣町までだったかまで風船で飛んでいってみせたらしい。その風船の旅も前途多難と言ったもので、スマートな着地ではなかったらしいが」
「なるほど、つまり一応可能って事になるのか」
「まあな、だが失敗例の方が多い。風船で空を飛ぶ事に挑戦して沖合まで風で流されて遭難、そのまま命を落とした例に、島から大陸まで風船で飛ぼうとして海上で行方不明になった例もある」
相棒の解説に、青年は納得した様に声色を明るく歓喜の物に変えて、作業を続けながら反応した。
「へえ、じゃあ風船を使えば人間は空を飛べるか否かってだけなら、何も問題は無いんだな。着地とか、方向のコントロールとか、そういう問題を度外視していいなら」
「まあそうなるな、人間一人を飛ばしたいだけなら、相応の風船があればいい。後は風任せになるだろうがな」
「ふうん、風船で浮かんで雲の上まで行ったらどれくらい寒いんかな? 人体が凍っちまうかも知れないな!」
「バカ言え、ヘリウムガスにそんな力は無い。少なくとも人体が凍る様な高度には至らんだろうな」
「そっか、じゃあ魔女が箒で飛べる様な高度って事だな!」
「なんでお前が魔女を例えに出したか理解に苦しむが、まあそうなるだろうな。いや、ちょっとした乗り物でちょっとした高度まで上がるって点ではあながち間違ってないか」
「へへ、そんな誉めても何も出ないぜ」
「バカな事言ってないで作業に集中しておけ」
「へいへい」
そう言いながら、二人は他愛の無い雑談をしながらも風船を膨らませるペースは手早く、テンポも早い。あっと言う間に大量の黒いヘリウムガス風船が出来上がった。黒い風船が連なって今にも空に昇らんとしている様は、まるで雷雲の様だ。
「さて、それじゃあ初フライトだ」
二人は運んで来た重そうな荷物を風船に括り付けたゴンドラに載せた。まるで人が一人倒れた様な重い音がして、風船付きゴンドラは本当の意味で完成した。さながら即席の一人乗りの気球と言ったところだ。
「こいつ、どこまで飛んで行くかな?」
「さあな、少なくとも天国じゃない場所なんじゃないのかな?」
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