第百三十二夜『スーパーヒーローの介護者-sidekick-』

2022/09/23「空気」「絨毯」「意図的な恩返し」ジャンルは「偏愛モノ」


 黄金の時代は終わり、スーパーヒーロー達の戦いは終わった。

 かの時代では多くのスーパーヒーローが戦い、ある者は彼らを宇宙からもたらされた無限の力と評し、ある者は彼らを悪魔の如き力と評し、しかし大半の人々は単純に超人と言う呼称を用いた。

 しかし問題はこれからだ、スーパーヒーローの何割かは名誉の殉職を遂げたが、老齢になり余生を過ごしている者も居る。それはつまり、生存したスーパーヒーローの更に何割かは老齢によりボケてしまったのだ。

「ワシも若い頃は人間松明と言う名前でブイブイ言わせたもんじゃ……はっくしょん!」

「ほらほらお爺ちゃん、気を付けてください。また絨毯じゅうたんが焦げますよ」

 彼、人間松明爺さんは誰が見てもマシな方だ。意識がはっきりしているし、頭も大してボケてない。ただ一つ困る事は、ふとした拍子に発火現象を意図せず起してしまうのだ。

 もうこうなると大変だ、今では人間松明爺さんは火災探知機か完備された老人ホームに暮らしている。そう、火災探知機や消火器さえあれば安全なのだ。

 問題は、これを全ての老齢のスーパーヒーローに行なう必要がある事だ。故にスーパーヒーローが入居する老人ホームだとか、スーパーヒーローを介護する介護士は特別な資格が必要となり、資格を得た介護士は政府からスーパーヒーロー血清が配られる。逆説的に彼らもスーパーヒーローと言う訳だ。

 これには世論がざわついた。ただの介護士をスーパーヒーローにする形でスーパーヒーローもどきを量産していいのか!? と叫ぶ者、老人性のボケ等を引き起こして介護が必要なスーパーヒーローを認めたくない者、スーパーヒーローから異能力をオミットする方法は黄金時代に発見されていたのだから使えばいいと主張する者、あわや社会問題、人権問題になるところだった。

 そして何より、ボケてしまったスーパーヒーローに誰かを傷つけさせる訳にはいかない。それこそ国の恥であり、スーパーヒーローに対する考えられる限りの侮辱ぶじょくだ。故に、スーパーヒーロー介護士もまたスーパーヒーローなのである。実は、この問題の解決の糸口は意外な所から見つかった。当のボケてしまったスーパーヒーローだ。


「落ち着いて聞いて下さい。あなたが外で出て、活躍しなくても街は今平和なんです」

「嘘じゃ、嘘じゃ! 全部道化王子の犯罪計画じゃ! 駒鳥童子こまどりどうじはどこじゃ? ワシは街を救いに行かないといかん!」

 そう言って駄々をこねている老人は蝙蝠童子こうもりどうじ、超人ではないがスーパーヒーローとして最も活躍をした一人だ。つまり老人となった今ではボケて超常的な力を用いて暴れたり暴発させる事は無い。

 しかし彼の頭の中では死別した宿敵がまだ生きており、その戦いの最中で死別した彼の信頼するサイドキックも生きている事になっているのだ。

「違う! 道化王子は死んだが二代目がすぐに出て来たのじゃ! 今も道化王子の跡継ぎが街を混乱に陥れようとしておる!」

 そんな事実は別に無い。

 しかし彼の言葉は、彼の思わぬところで実を結んだ。介護士が介護を必要とするサイドキックになればいいのだ。こうすれば求人や世論の方面で、スーパーヒーローを侮辱する事無く、私がかつてのスーパーヒーローのサイドキックになります! と介護士を募る事が出来る。

 蝙蝠童子本人に至っては、何人もサイドキックと愛別離苦しており、苦しみからストレスを感じていたのだ。介護士がサイドキックを名乗ると、すぐに馴染んで落ち着いた様子を見せ始めた。

 別に誰も、誰も騙してはいない。介護士達は今まさにサイドキックなのだし、老齢のスーパーヒーロー達にとってもそうであり、世論もこれで納得している。

 そもそも現役時代にサイドキックを取っていたスーパーヒーローは、頻繁に奇行をサイドキックから止められていたのだ。現役時代でも老齢でも、そのやり取りは何も変わっていない。

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