第百二十八夜『金属探知機-blessed perfection-』
2022/09/19「西」「猫」「壊れた可能性」ジャンルは「純愛モノ」
いつの間にか村の中心に大きな装置があった。チャップリンの映画に出て来る様な、人間大の歯車が剥き出しになった装置だ。
これは何だろう? と、村人達が寄って来るが、見た事も無い装置で、誰にもとんと想像がつかない。
しかもこの装置、見た事無い材質で出来てるし、ネジやボルトやビスの類も表面には見られない為構造もイマイチ目で見て解らない。ただ剥き出しになった巨大な歯車が動いている、そんな印象の装置だった。
これを精査しようとするにしても、とんでもない重量をしていて重機でも持ち上げたり持ち運ぶことが叶わない。梃子でも動かないとはこの事だ。
ああでもない、こうでもない、と額をよせ合っていると、これまで猫を被っていた装置が動き出して内部の方から音楽の様な物が聞こえ始めた。これを音楽な様な物と表現したのは、この世の物とは思えぬ金属が軋む不協和音だからだ。
村の衆は各々自分が表現出来る限界に挑むかの様に装置を罵倒し、歯車が剥き出しな事を見て手当たり次第に石やら何やらを投げ始めた。
しかしそれでも歯車は止まらない、石やら何やらを投げつけても歯車は容易に噛み砕いてしまうのだ。
そんな中、ある村人がコインを歯車目掛けて投げつけた。するとどうした事か、歯車はコインを噛み砕いたが、同時に装置は動きを止めた。
しかしそれも一瞬だった、一枚のコインでは
これには村人は増々ざわついた。
村人が試したところ、装置は金属を噛ませると量相応の時間だけ止まる事が分かった。
しかしこれは村にとって、言うまでもなく無駄な出費だ。金属を入れる作業も、入れる金属も村にとって負担であり、村の衆は装置を壊そうとしたり、西へ東へと助けを求めたりした。しかし、この装置はどうやっても壊れも恒久的に止まりもしないし、持ち運びも出来なければ、引き取りたいと言う人も出て来ない。しかも金属を噛ませるのをサボると、地獄の様な金切り声を挙げ始めるので、それこそ金属を噛ませるか村を捨てるかしか選択肢は無い。
こうなってくると、人間の頭はおかしくなっていく。ある時、すっかり神経衰弱に陥った村人が動いている装置に身投げをした。元より人間大の大きさの歯車が組み合わさって動いている装置なのだ、身投げした人物は歯車に磨り潰され、骨も肉もすっかり分解された。
すると装置は満足したかのように、血で赤く染まった歯車を止めた。無論人体に含まれる金属の量など高が知れている、またしばらくしたら装置は最低の音楽を奏で始めるだろう。
星の遥か上空、宇宙を飛ぶ船が浮いていた。宇宙船の中にはキチン質的な外見、金属質な肉体の宇宙人が乗っており、油で潤った眼窩で地上を観測していた。
「ご覧ください、どうやら第一号の成功例が出来たらしいです」
「よっし、これであの星の連中にも我々の意図が伝わってくれた事になるな! 全く違う文化と組成の人達だったから、うまく行くか心配だったが、杞憂だったみたいだな!」
「ええ、そうなりますね。もっとも、父祖を讃える歌を聞いて賛同しない知的生命体が居るとは思えませんが」
「ああ、有機生命体なんて不便な肉体は本当に可哀想だもんな! ささ、次はどこの星に行く? 父祖の歌をとっとと宇宙中に届けないと!」
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