第百二十六夜『もういいかい?-No, not yet-』
2022/09/17「東」「メトロノーム」「穏やかな城」ジャンルは「ラブコメ」
みなさんはこっくりさんはやった事はありますか? もしくは一人かくれんぼとか生き人形遊び等でも構いません。
とにかく私が言いたいのは、交霊術をする際には後始末をしなければならないと言う但し書きや注意事項が書いてある事が多いと言う話です。
「つまり一言で言うと、チャーリーさんとか言う新種のこっくりさんをやりたいって事?」
放課後の中学校、私こと
「何でそのチャーリーさんって何でも知ってるの? そもそもチャーリーさんって誰?」
「それはこっくりさんと同じで、チャーリーさんは心霊? とにかく人間とは違う存在だからじゃない?」
「いや、チャーリーって思いっきり人間の名前じゃないの……物知りな幽霊が居るとしてもいいんだけど、こっくりさんとかみたいに明確に人間じゃない存在の降霊術じゃないと、なんと言うか気持ち悪い気がする」
気持ちは分からなくもない。しかし、こんなものはこっくりさんとは名前が違うだけで、本質は変わらないものではないのだろうか? はっきり言って彼女はチャーリーさんを擬人化し過ぎて居る様に思えた。
「どうせそんなのは名前が違うだけでしょ、気持ち悪くなんかないよ。それにチャーリーさんが人間だとしても、幽霊ならどうって事無いし」
私は西宮さんを説き伏せる事に成功し、空き教室でチャーリーさんを行なう事にした。
「ところで何か注意事項は無いの? 例えばこっくりさんなら、使ったコインはすぐに使うとか、使った紙は破るとか……」
「無いよ、そう言うのは無いの。調べたけど出て来なかった」
「無いってあんた、そんないい加減な……」
西宮は呆れた様子で私に苦言を呈したそうな態度を取った。大体彼女は心配性なのだ、こんなおまじないの類なんて深い意味がある訳が無い。ルールを作ると言うのは人間が安心を得たいから行なう訳で、逆に言えばルールが無いと言うのは安全な事に他ならない。
「まあ大体のやり方はこっくりさんと同じだよ。違うのは『チャーリーさん、チャーリーさん、遊びませんか?』とかの呼びかけでスタートする事と、答えはイエスかノーだけなくらい、この呼びかけもチャーリーさんを呼びかけるものなら何でもいいってファジーな感じで、終える際に『チャーリーさん、チャーリーさん、やめませんか?』って言う必要があるんだって。それと、使った紙と鉛筆も捨てたりしなくていいみたい」
そう言って私は西宮に、紙を
「随分と簡素な紙ねー」
「うん、準備するのが楽だった」
「でしょうね」
そんな他愛ないと言うよりは素っ気ない会話を交わし、私は一つの事に気が付いた。
「どうしよう、私チャーリーさんに聞きたい事が無い!」
「ちょっと待て、あんたチャーリーに聞きたい事があるからチャーリーさんをするんじゃないの?」
「えと、その、しょうがないじゃん! チャーリーさんをやってみたいけど、聞いてみたい事は無かったんだもん!」
「じゃあ、今日明日のご飯の事でも尋ねたら?」
「それだ! さすが西宮、天才!」
「誉めても何も出ないよ」
「いやいや、一緒に付き合ってくれただけで大助かりだよ」
「いいって、あんたと一緒にバカな事するの楽しいし」
「今私の事、バカって言った?」
「言ってないよ」
「そっか」
西宮とバカな事を言い合いながら、手順を書いた記録を見て準備をする。概ね先程説明した通りだが、やめませんか? と尋ねた後、グッバイ! 等、お別れの意思を表す必要がある事、チャーリーさんがそれでも帰らない場合は『チャーリーさん、チャーリーさん、帰って下さい!』と言いながら紙を破ればいいらしい。なるほど、原則として紙は破かなくてもいいと言う事か。
準備は万端、早速チャーリーさんを実行に移す。
「チャーリーさん、チャーリーさん、私の昨日の夕飯はご存知ですか?」
すると十字に置いた鉛筆の上の一本が、触れもしないのにひとりでにゆらりゆらりと動いて私の質問に答える様に傾いた。
「わ、すごい! 本当に動いた。」
「なにこれ? すごい! 動画撮っとくべきだった! 撮ったら何かマズいかな?」
「んー、マズいマズくないじゃなくて、やらせか何かだと思われるんじゃない?」
「そっか、でも友達に診せるために撮っておく事にするよ。さあ、早く次の質問を」
「えっと……チャーリーさん、チャーリーさん、私の昨日の夕飯はハンバーグ、それで合っていると思いますか?」
すると鉛筆は再びひとりでに動き始めた。ゆらりゆらりと傾いたかと思うと、見えない指に弾かれたかの様にビシッ! とNOを指し示したのだ。
「すごい、合ってる! チャーリーさんは本物だ!」
「マジか……ねえ私にも一回だけやらせてよ、はいこれ動画撮ってて」
そう言って西宮は私に携帯端末を手渡し、チャーリーさんの紙の前に立って言った。
「チャーリーさん、チャーリーさん、私の運命の人はこのクラスの中にいますか?」
するとチャーリーさんは三度ゆらゆらと傾き始め、今度はYESを指し示した。
「東見た? 運命の人がクラスに居るって!」
「本当? すっごい!」
チャーリーさんはイエスかノーでしか答えない、なので自然と質問を工夫する必要がある。それはつまり質問の回数が増えると言う事で、私と西宮は何度もチャーリーさんを試して時間はあっという間に過ぎ去った。
「げ、もうこんな時間。悪いけど今日はこれで終りにするね」
「うん、分かった。チャーリーさん、チャーリーさん、今日はもうやめませんか?」
すると鉛筆は傾きNOを指し示した。
「チャーリーさん、チャーリーさん、もう終わりにしたいです」
しかし鉛筆はNOを示し、コツコツと音を立ててそれを突いた。
「ちょっと、これマズいんじゃない?」
初めは乗り気でなかった西宮も焦りの色を帯び始めた。チャーリーさんに失敗したらどうなるかは知らない、チャーリーさんの正体は心臓を食べる神様かも知れないとは書いてあったが、失敗しても心臓を食べられると言った様な事は書いてなかったし、そもそも失敗したらどうなるかさえ書いてなかったのだ!
「チャーリーさん、チャーリーさん、お帰り下さい!」
私は半狂乱気味になりながら、チャーリーさんの紙を破り捨てた。チャーリーさんのルールによれば、これで強制終了する事が出来る筈だ。
紙を破いた瞬間、教室は静まり返った。私も西宮も何も言えなかったのだ。耳を澄ましても心霊現象にありがちなラップ音等は聞こえないし、何か人間でない存在の足音が聞こえたりもしないし、先程まで執拗にNOを突き続けていた鉛筆は微動だにしない。ただただ
私と西宮は急いで帰る事にした。この日、教室では何もなかった。そう言う事にしたのだ。
私が家に帰ると、しばしば奇妙な事が起こった。脱衣所や風呂場、そしてベッドの中で誰かが居る気配を感じるのだ。
夜眠っている時、何者かの気配を感じる事は誰しもあると思う。しかし、私の場合は誰かに見られていると言う実感に加え、荒い息遣いまで聞こえるのだ。
私は早速、西宮に心霊現象の類に遭遇する事は無かったか尋ねたが、彼女の身には無かったらしい。
ただ彼女が言う事には、録画していたデータはクラッシュしていて再生する事が出来なかったらしい。
私は想像する。あの場で鉛筆を動かしていたチャーリーさんは、西宮が言う様に気持ちの悪い存在で、それこそカメラが保存を許容出来ない様な異常存在で、それが私のすぐ近くに居て私を凝視しているのではないかと……
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