第百二十五夜『現世発異世界行き急行列車-express life-』

2022/09/16「炎」「オアシス」「憂鬱ゆううつな子ども時代」ジャンルは「サイコミステリー」


 本作は異世界ファンタジーである。

 異世界ファンタジーであるからして、例えばトラックに跳ね飛ばされた青少年が異世界に吹き飛ばされたり生まれ変わり、その先で高慢ちきな貴族主義者の家系の長女だったり流浪るろう英雄豪傑えいゆうごうけつとなり、まるで戯曲の如き大活躍をするのである。

 これはその前日譚ぜんじつたんである。


 * * *


 俺の様なえないおっさんが自己紹介や自己語りをするのは、聞き手側からしたら億劫おっくうな事かも知れないが許してくれ。今の俺は、自分の心の内側を吐き出して整理しないと頭がどうにかなってしまいそうなんだ。

 名前は……すまん、それは伏せさせてくれ。野次馬がどこからか、俺の周囲へ寄って来ないと断言はできないからな。

 趣味はファンタジーもの作品の読書や視聴しちょう、特に剣と魔法の冒険譚を好んでて、以前は映画やリプレイなんかを貪るように消費していたな……

 昔の俺は、魔法のタンスや魔法の列車を通して異世界へ行って、その先で選ばれし者として宿命の戦いへと身を投じる妄想をしたものだ。いい歳になった今でも、そう言った作品は好物だったと言ってもいい。別に日々の生活に不満があった訳では無いが、俺にとって血沸ちわ肉躍にくおどる非日常的な冒険譚は一種のオアシスだった。

 それであの運命の日が来た、俺にとって人生最悪の日だ。あの日、俺は仕事なもんでいつも通り駅に向って走っていた。その時に女の子が、世界で一番かわいい、それこそ俺の命なんかよりもずっと価値があるだろう女の子が視界に飛び込んで来て、目と目が合った。

 娘だったよ、俺の目の前に飛び込んで来たのは俺の娘だった。俺は電車でテメエの娘をき殺したんだ。

 俺は我が子の事を可愛がっていたが、全ては自己満足だった! 俺は独り勝手に娘の事を理解していた積もりで、その実あいつが自殺を考える程に悩んでいた事をチラリとも気づいていなかった! それだけじゃない! 俺は娘から相談の価値の無いダメで信用の無い父親だと思われていた! 俺はこんなにも家族を愛していたが、全部薄っぺらなハリボテだったんだよ! 俺はどんな時もお前の味方だったし、母さんもそうだが、あの娘にとっては何の価値も無かった! 俺が自分の身より可愛いと思った娘の人生の価値は、あいつにとっては何の価値も無かったんだ!

 あいつは俺にとって、最愛の娘って奴だった。俺の人生は灯が消えた様に真っ暗になった。


 大好きだったファンタジー作品も今になってはなぐさめにもならない。特に、最初に主人公が事故にう様な作品に至っては、俺はもう二度と手に取る事すら出来ない。

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