第百二十四夜『自殺を許せない人-supercell-』
2022/09/15「暁」「ガイコツ」「ゆがんだカエル」ジャンルは「SF」
俺は無実だ、無実なんだ!
そうは言ったが、俺はこの国で重罪とされている行為を行ったのは事実で、俺はそれを犯罪であると承知して行った。つまりは確信犯と言う奴だ。
俺は神々に誓って言うが、間違った事はしていない。ただちょっと、耐えがたい苦しみを抱えている患者や助かる見込みの無い末期患者に頼まれ、眠る様に安らかに息が止まる薬を処方しただけ。
繰り返すが、俺は医療の神々に誓って、助かろうとする意思が無い人に依頼された薬を処方されただけ。何もやましい事はしてないし、俺は俺の最善を尽くしただけに過ぎない。
だが、この国の法律を作った連中や司法のバカ共は現場を知らなければ、他人の事もどうでもいいと思っている狭量の輩しか居やしない。俺の医療行為は殺人と断じられ、俺は応報刑になると、判事殿はそう言った。
全くもってバカバカしい! 自分の足で立つことも出来なければ呼吸すらままならない上に、何より自ら治ろうとする意思の無い人間を見た事が無いからそんな残酷な判断が出来るんだ。それを自殺
何よりも腹が立つのは、同業者共の俺を見る目だ。神々に害ある施術や投薬を行なわないと誓ったのではないか? と、そう言いたそうな目だ。
不心得者共めが! 神々に対して最善を尽くすと誓ったのはお前らだろうが! それを卑しくも患者が助けを求めているのを、手を尽くしたのだからと、後は死ぬのを見ているだけなのが正しいと静観決め込むのが最善か? 人間が苦しむところをゆっくりいつまでも眺めるのが終末医療だと言うのなら、俺は文字通り何でもしてやる!
俺は有罪となり、投獄され、何かよく分からない物を投与された。連中が言う事には、応報刑の血清だそうだ。
なんのこっちゃ? と初めは思っていたが、血清の効果が明らかになってから俺は応報刑と言う表現が理解出来た。
ところでアポトーシスと言う言葉はご存知か? あいやまたれよ、この応報刑を話す前にどうしても説明しないといけない事柄だ。離れ落ちるとか、細胞の自殺を意味する言葉だ。細胞の自殺と言っても、発酵がそうである様に生物に有効な現象を指す。いわば有用な自殺と言う意味だ。
例えば人間の指が形成されるのはアポトーシスに因るもので、アポトーシスが無ければ人間の手は指を形成しない棒の様な形状になってしまう。アポトーシスによって指と指の間である細胞が自殺をするから、人間には指があるのだ。
最も有名なアポトーシスの例は、カエルの尻尾だ。アポトーシスが無ければ、世のオタマジャクシはカエルにうまく変態する事が出来ず、歪んだ形になってしまうだろう。
それともう一つ、人間の細胞は死んでは新しく生まれて入れ替わり、器官によって再生や入れ替わりの期間は異なる物の、一定のリズムで全身の細胞は入れ替わっているのは知ってるか? 新陳代謝とも言うな、こうした肉体の機能の為にも人間は動物性タンパク質が必要とも言える。
例えば皮膚細胞は一月程で入れ替わり、血液は四カ月程、人間の全身の細胞は死ぬから人間は生きていけるんだ。例外は歯だ、歯が生え変わるならそれは只人じゃない。
俺がアポトーシスや新陳代謝について説明した理由は、察しの通りだ。俺は血清の効力で自殺が出来ない体になった。
血清を投与された当初は、それは気分が良かった。今思うと、まるで話に聞くラジウム性健康飲料を摂取した様な状態だった訳だ。俺の肉体は死なないし、自殺も出来ない、ただ増え続けるだけだ。
奇妙な気分だった。まるで一日中薄ぐら明るい暁が続いている様で、夜が来て心身を休める事が出来ないとでも言えばいいのかな? とにかく俺は肉体の変調に気付いて、ぞっとしたよ。
異変に気付いた時は自殺も試みてみた。ご覧の通り狭い独房だもんで、出来るのはせいぜい壁に思いっきり頭をぶつける程度だが、これが思いのほか上手く行った。そうは言っても、俺は死んでないじゃん。と、そう言いたそうだな? ああ、俺は普通なら、頭蓋骨が砕けて脳味噌に破片が刺さって自殺が出来たと思う。だが、どうやら脳味噌の傷口があっと言う間に埋まって、それから頭皮も頭蓋骨も新しくなったらしい。患部と言う患部に人工繊維か
俺は殺してくれよ! と何度も
んでもって、自殺願望持ちを殺したらこうなるぞ! と、こうして見せしめに自分語りをお前さんみたいな前途有望な医学の
ああくそ、足の裏が
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