第百二十三夜『お月見団子-lunatic-』

2022/09/14「黄色」「妖精」「過酷な高校」ジャンルは指定なし


 満月を見ながら団子を食べる。ひょいぱく、ひょいぱくと口に放り込むとあっと言う間に食べきってしまった。

 仕方ないので月に手を伸ばし、千切って口に入れる。メレンゲの様に硬くて乾燥しているが、口の中でほろほろと柔らかくほどけて感触が楽しい。

 月を千切って食べていると、月からイブニングドレスを着た美女が歩いて来た。

「ちょっと酷いじゃないんですか? 今あなたが食べたのは、うちの実家の土地なのよ!」

「ごめんなさい」

「分かればよし、次はありませんからね!」

 全く、手持無沙汰てもちぶさただったから月をお月見団子代わりに食べただけなのに、とんでもない大目玉を喰らってしまった。何か代わりに食べるものは無いだろうか? と、周囲を見渡すと、二種類のスナック菓子がしきりに、自分を食べろ! あっちより自分の方が美味いから食べろ! と、私に向ってせまって来た。両方を同じ皿に入れて電子レンジで黒炭状になるまで調理した。勿体ないので庭に撒くと、あっと言う間にそこから果物が実った。

「まあすごい、まるで花咲かじいさんね!」

 お隣さんが話しかけて来た、褒められては悪い気がしないので収穫物をおすそ分けする。それを食べたお隣さんの元にスーツを着た死神の女性が来て、手に持ったステッキで首をねた。そこにバスが突っこんで来て、お隣さんの首無し死体と死神の女性はねられて映画の様に吹っ飛んだ。

「俺達は強盗だ、金を出せ!」

「許してください、うちは無一文なんだ」

「そうか、それなら仕方ないな。明日また来るから、ちゃんと用意しておくように」

 バスを運転していた強盗はどこでもドアを通って帰って行った。どこでもドアの先には風呂場になっており、強盗が目をつむってかみを洗うのがここから見えた。

 因みに私が無一文なのは本当だ。財布がお金を食べてしまってオケラなのだ、明日からどうやって生活しよう? もっとも、周囲には誰も手を付けないびんや缶入りの食料や飲み水がある為、困らない。

 そうと決まったら善は急げだ、私は食べられる瓶を探すために外へ出る。ぱしゃりぱしゃりと霊を相手にグラビア写真を撮っている二人組の男を尻目に缶詰を探すが、見つかるのは歩き回る人形くらい、聞いたところによると蚊が絶滅ぜつめつして天然のチョコレートはもう二度と手に入らないらしい。

 私がほとほと困っていると、狐と牛が楽しそうに料理をしていた。

「狐さん、牛さん、何を作っているのですか?」

「「今からここをお釈迦しゃか様の生まれ変わりが通るのじゃ、そいつをこれからバター煮にするのじゃよ」」

「あら素敵、私もご相伴に与かってよろしいですか?」

「「喜んで! ふふん、わらわの料理を食べたらおどろくぞ」」

 すると言葉の通り、お釈迦様の生まれ変わりらしい脳味噌のうみそがこちらの方へ跳ねて来た。私と狐と牛は飛び跳ねる脳味噌を追いかけるが、これが敵も猿もの引っ掻くもの、食べられては堪るものかと逃げ回る。結局お釈迦様の脳味噌のバター煮はお釈迦となった。

「「こうなったら貴様を代わりに食ってやる!」」

「私風邪気味で抗生物質飲んでるんですよ、それでもいいですか?」

「「仕方がない、今度はお肉を持って来るのじゃぞ」」

 狐と牛と別れて空きっ腹のまま学校を訪れる、学食ではひげを切り揃えた教授がヘッドバンギングをしながらラッパを吹いていた。

「こんにちは先生、それは何ですか?」

「ああこれかい、これはこの世の終わりを知らせる魔笛まてきだよ」


 * * * 


 目覚まし時計がけたたましく鳴り、朝を告げる。

 何やら不思議な様な懐かしい様な夢を見ていた気がするが、内容が思い出せない。そんな事よりも、私は私の使命を全うしなければならない。

 緩慢かんまんに続く人の世を終わらせる為の計画を、現在進行形の物も青写真の物も実行しなくてはならない。次に実行するのは果てさて、どれか?

 私は新しい計画を立案するべく、脳内のアイディアを熟考し始めた。

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