第百二十夜『踏切の向こう側-BEwARe-』
2022/09/11「雷」「目薬」「ゆがんだ流れ」ジャンルは「学園モノ」
踏切のポールが上がるのを待つ間、何と無しに目を上げると電車の窓を通した向こう側に何やら見慣れぬモノが見えた。電車を通した向こう側に何かクマの様なモノが居て、それと目が合ったのだ。
それは姿形大きさから見るに、多分クマの着ぐるみを着た人間だったと思う。それくらい存在感があって、ある意味等身大のサイズ感だったのだ。
僕はクマの着ぐるみと思わしきそれと目が合い、奇妙な感覚を覚えて目を離せなくなった。何と表現すればいいか分からないが、目を合わせ続けていないといけない感じがしたとでも言うべきだろうか。
そうしているうちに電車は過ぎ去り、踏切のポールは上がる。しかし、その場にクマの着ぐるみは居なかった。周囲の人達もごく普通に通行していて、あのクマの着ぐるみは僕の視た幻覚か気のせいだったかの様だ。
僕は今起こった事を疑問に思いながら、登校するべく通学路を歩いた。
「そりゃ気のせいだろ。きっと寝ぼけて電車に乗ってた何かがクマの着ぐるみに見えたんじゃねえの?」
学校で友人にその事を話したら、そんな事を言われてしまった。
「いやでも、踏切で電車が通り過ぎるまでずっと居たんだぜ? それだと理屈に合わない」
「そりゃ余程印象に残ったから、網膜に焼き付いたんだろう。残像って奴だ」
そうなのだろうか?しかし何故クマの着ぐるみがそんなに印象に残ったのか、俺は不思議で仕方がない。
「きっと何か寝ぼけて、心のどこかでクマの着ぐるみを想像してたか、クマの着ぐるみの出て来る夢でも見てたんじゃねえの? そう考えたら説明がつくじゃんかよ」
お前、さっきと言っている事が変わってないか?
「いやいや、電車の向こうにクマの着ぐるみが居るだなんて素っ
そういう友人は面白がっていると言うより本当に心配な様子で、情報を洗い出して本気で警察に連絡するべきだと言いそうな真剣な物だった。
「いや、気のせいだったと思うよ。あれはきっと俺の気のせいだった」
学校の帰り、踏切に近づくと何やら封鎖されていた。踏切のポールはへし折られ、ランプも地面に叩きつけられて割れており、落雷でも直撃してもここまで酷いとは思えぬ惨状だ。しかも、地面には殺人の名残まで見られる。
まるで、野生のクマに背中を見せて逃げたらこうなった。と、そう言う様な光景だった。
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