第百十五夜『大発明、生態系クラッシャー-alien-』

2022/09/05「雪」「時間」「バカなカエル」ジャンルは「ミステリー」


 あなた、そこのあなた。ええ、あなたです。

 ここだけの話、あなたにだけ特別な話があるのです。まあ、ここだけの話と言うのは、皆さん個々人に話していると言う意味なのですがね。

 あなた、どこでもドアってご存知ですか?実はあれ、実用化が完了しているのですよ。ちょっと前まで開発中で、色々無視できない問題がたくさんあったのですが、今はもう普通に実用に耐えます。

 いやはや開発中は痛し痒しでした。どこでもドアはワームホールの様に地点と地点を結んで亜光速で射出し、その間肉体であったり荷物は粒子化して物体を透過し、到着点で再構築されて完了します。つまりは一言で言うと、亜光速で移動する装置と言うのがこの装置の本質と言う事になりますね。

 しかし先程申し上げた様に、開発中はこれがうまくいかなかった。試しに段ボールに入れた荷物を転送するも、外装がズタズタにあちこちに散り散りになったり、動物実験するも毛皮や尻尾が剥げたり千切れたり……その転送する物体の本質以外はうまく送れない事態が多発したものです。

 ですが今日はもう如何様な動物も五体満足で送る事が出来ます! それこそ理論上人間だろうが、精密機械であろうが絶対に大丈夫な筈です! もっとも、人権屋がとやかく言う事が予想出来るので、人間で実用は認可されていませんがね。

 ただ、あなたがどこでもドアの実用化をご存知ないのは不思議でもなく、ちゃんとした理由がございます。民間人や一般の方にどこでもドアを流通させると、不用意に外来種を広めるおそれがあるのでございます。例えばどこでもドアを使用する際、移動先に生息していない虫や菌やウイルスを絶対に連れて行かないとどうやって言えましょう? それこそ神様仏様でもなければ絶対無理、映画の科学者がやりがちなミスと言う物にございます。

 ふむ、どうやら外来種に関してネガティブな存在と言う事以外にご存知無いようですね。

 生態系には自浄作用と言う物がございます、例えばライオンや白熊は自分の血が流れていない仔ライオンや仔クマを殺そうとします。そうしなければ、生態系の頂点と言う生物は種として立ち行かなくなると言う事にございます。もし仮にそんなアポトーシス的性質を持つまでに強力な生物が余所の生態系に放たれて我がもの顔で振舞ったらと思うと、恐ろしくて夜も眠れませんね! この例であるならば、沖縄に放たれたマングースは天敵の存在しない害獣として名を知られていますね。

 もっとシンプルで身近なところで参りましょう。ブルーギルやアメリカザリガニなんかの外来種は生態系を荒らし、本来居た生物を余所に追いやったり、或いは絶滅まで追いやるケースもあると言われています。

 厄介なのは肉食動物だけではありません。例えば葛、ミント、タケノコ、ミミズ、ウサギ……繁殖力の強かったり土壌の栄養であったり植物を食いつくす動植物を食料になるからと、安易に持ち込んでその結果、外来種として環境を乱すケースも多いです。

 さて、何故私がこの様な話をしているか不思議がっておりますね? これは話題性や印象付けに因るところであり、本題はここからです。

 この写真の男性、我々が追っている人間なのですが、仮にこの男を見かけても関与したりしないで、そして見かけたら必ず我々にご一報ください。

 我々は彼を環境テロリストとか、或いは単純に伝聞し易さを考慮し、外来種ばら撒きおじさんと呼んでおります。

 彼は何の目的か分かりかねますが、どこでもドアが完成したところを、どこからどうやったのかそれを外部から奪い、好き勝手に外来種を散布する目的で用いる危険人物です。

 繰り返しますが、彼を見かけても決して近寄らないでください。追い詰められた人間は何をするか分かりません故、あなたがどこでもドアに放り込まれる可能性すらあります。これがどこかにーそれこそ人間が生きていけないような極寒の地や、深海の底などー飛ばされるだけでも問題ですし、どこでもドアは亜光速の加速装置です故、理論上ウラシマ効果による片道タイムトラベルすら引き起こす可能性もあります。ひょっとしたら太古の地球のどこか……なんて事はさすがに無いと思いますがね。

 しかし、あんなもの一般人には荷が重いと言うのに、やっこさん神様仏様にもなった積もりなのでしょうかね?

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